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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
223/300

第223話 成長を予感させる冒険者の顔

「エル姉ちゃんルフ姉ちゃん。ちょっと自主練付き合ってくれよ」

「良いけど……大丈夫?」


 雪掻きの仕事を終えて道場に戻ると、既に泥だらけのジンに誘われた。

 一日、修行をした後だ。


「風魔法との複合魔法で、目に見えない攻撃を捌く練習なんだけどさ。『魔力を肌で見ろ』って言われて。意味わかんなくて」

「なるほど。私も分からないわ」


 彼はとても真面目で熱心だ。辛い修行をサボるどころか、自主練まで。

 私達の為に。


 ボロボロの彼を見ると、私も何かしてあげたくなる。私も、頑張らないとと。


「うーん……。いつもはどうしているの?」

「魔法は目で追ってるよ。でも、魔力は見えないじゃん。風も見えないし」

「……あ」


 魔力は見えない。そうだ。亜人でも見えないのだ。エーデルワイスの血を受け継ぐ私は、見えるけれど。ルフにも、魔力そのものは見えない。


「え?」

「ちょっと立って、構えてジン」

「うん」


 道場を出た先の広場(境内と言うらしい)で、ジンに構えさせる。私は少し距離を置いて、彼に向かって手を翳した。


「攻撃するわよ」

「うん」


 ドン。


「!?」


 それを腹に食らったジンは、衝撃によろけて2、3歩たたらを踏みながら後退した。


「……なに? 今の」

「魔力をぶつけたのよ。私にとってもこれは盲点だったわ。魔法に『成る前』の魔力。言われてみれば、圧縮やボムなんかで使っているのだから、相手に直接ぶつければそれだけで攻撃になる。しかも、『見えない』攻撃に」


 速い。

 いや、早い。

 魔法になる前に撃ち出すから、いつもよりも射出と着弾が早い。


「……ルフ」

「はい。魔力感知に反応がある頃には既に着弾していました。これは……」


 ルフにも確認する。彼女も再現しようと手を前へ突き出す。


「…………?」


 ジンは構える。

 けれど、何も発射されない。

 私には見える。ルフの魔力の動きが。


「……できませんね。もう一度、ゆっくり見せて貰えますか」

「分かったわ」


 魔力の弾。手の平大。それを直接、射撃(シュート)する。


「うわっ!」


 ジンは反応できずに食らう。


「どう?」

「……前提として、魔力圧縮が必要なのですね。圧縮した魔力を球状に固定化して、魔力操作によって撃ち出す。……これも立派な魔術ですよ」


 ルフは、魔力の感覚を魔力感知に頼っている。私のように五感で感じることは難しい。けれど、コツさえ掴めれば、これはできそうな気がする。


「魔法にせずに魔力を放出……という感覚が大事だと思うわ」

「何となく分かりました。原点回帰。初めて魔法を習った30年前を思い出します。まずは簡単な魔力の知覚からでしたね。忘れていましたよ」


 そう言って、ルフは目を閉じた。そうだ。見えなくとも、少なくとも自身の内にある魔力は知覚できる筈なのだ。亜人なら誰でも。

 いつしか、便利な魔力感知に頼り切り、忘れてしまう感覚なのだろうか。


「……えっと。エル姉ちゃん」

「ええ。あなたも、体内には流れないけれど、当たれば魔力を知覚できる筈よ。だから、当て続けるわね。魔力の感覚を覚えるのよ。そして私は、この攻撃を極める。もっと強力に、もっと速く」


 楽しくなってきた。これは、僥倖だ。こういう方法もある。

 ニンゲンどころか亜人さえも認識できない純粋な魔力の攻撃。魔法攻撃ではない、その前の段階。


「エル姉ちゃん」

「お互い完成させたら。更に一段レベルアップしていると思わない?」

「!」


 ジンの目付きが変わった。いつも私に向けてくれる優しい顔ではなくて。

 明るい未来と自身の成長を予感させる、冒険者の顔に。


 これなら、カナカナに勝てるかもしれない――

 多分、今きっと、私も同じ顔をしている。

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