第221話 冒険者が好きそうな称号
「ほしたら次。火炎放射」
「う……おおおおおっ!」
レインは私の知らない魔法も知っている。見ているだけで勉強になる。
今日は猛吹雪。街には降りず、道場で見学の日。
雪掻きについては、取り敢えず屋根の一部に〈カロル〉を掛けていて、実験中。上手くいけば、ローコストで『積もらない屋根』ができるかもしれない。吹雪が収まったら確認に行く予定。
「火を『生み出し続ける』魔法と、風魔法の複合ね。火炎放射。強力だわ。思い付かなかった。火は玉にしてぶつけるという思い込みね」
人差し指を立てて、火を付ける。さらに重ねて火を。さらに。さらに。
そして風。
「……あっ」
消えてしまった。
「コントロールが難しいわね。……よっと。こうね。掴んできた」
「相変わらずセンスが化け物ですね」
魔界のエルフは珍しい魔法をいくつも知っているのだと私は想像する。彼女にも教えを請いたいけれど、ジンの修行を邪魔する訳にはいかない。
「ねえ、カナカナ」
「なんだ?」
今日は、無駄な魔法はここまでだ。魔力侵蝕の感覚も以前より掴めてきた。
「『六化六強』って、何?」
私は彼女から初めて聞いたその言葉について、訊ねた。
カナカナは笑っていた。
「……冒険者ギルドが把握している中での、『ニンゲン界最強』の戦力のことだ。六人の化物と六人の強者。合わせて六化六強。まあ、ギルドが勝手に呼んでるだけではあるんだけどな」
「エデンに住んでいたのに、聞いたこと無かったわ」
「最近は入れ替わりもねえからな。エデンつっても、町の噂にはならねえよ。酒場に入り浸ってない証拠だ。優等生だなエルル」
「なるほど。確かに酒場や娼館に行かない分、私達は情報の面で遅れるわね」
ニンゲン界最強戦力。ジンが好きそうな話題だ。
「私がそれの候補って? 魔界入りどころか、あなたにも勝てないのに?」
「まあな。単純な戦闘能力だけが基準じゃねえ。あんたの場合、そのネームバリュー。血筋。影響力。そしてそれらを有効に扱え得るレベルの実力」
「……実力?」
「A級冒険者よりはまだ強いんだろ?」
「……あっ」
確かに。けど。
ジンには、試合で勝っただけで。
「なりたくてなるモンじゃねえ。別に仕事も無えし責任や手当も無え。ただの称号だ。二つ名と同じで、周りが勝手に呼ぶだけだ」
「……ああ、なるほど。ジンが好きそう、と思ったけど。それって『冒険者が好きそう』と同義なのね」
「変な納得の仕方だな。ま、大体そんなのに興味ない奴がなるって相場は決まってる。あたしの知り合いに何人か居るが、そんな奴らだ」
「その、モナという人は?」
「一度、ギルドマスターから紹介受けてな。一時期面倒見てた。が、あいつの才能と得物は魔導術とは相性が悪くてな。ミーグ大陸に居るその知り合いに預けたんだ」
「六化六強の?」
「ああ。六強の四、クリア・フォレストダウン。白狐のビーストマンだ。魔力強化の達人で、最大出力も持久力もオスの亜人を大きく上回る。間違いなく『最強のビーストマン』のひとり。ミーグ大陸大運河の河岸を往復して、海竜がミーグ側へ来ないように見張ってる。ニンゲン界の門番。番犬だ」
ニンゲン界側の戦力。ということは。
「…………もしかして、母も」
「鋭いな。エルフィナ・エーデルワイスは『六強の三』だ。鍛えたオスを凌駕する桁外れの魔力量、膨大な魔法の知識、天候すら変える大規模魔法に、緻密な魔力操作、そして魔力視の血筋。……エルフィナとクリアは例外を除いて六化六強でたったふたりのメスだ。ニンゲン界最強のメスだな。だからあんた達が候補なんだよ。クリアの弟子と……エルフィナの娘」




