第220話 どっしり構える皆の修行
さて。
ずっとジンの修行を見ている訳にもいかない。カナカナの屋敷に世話になって宿泊費は浮かせているとはいえ、路銀は底を尽きかけている。
私とルフは街へ降りて、仕事を探すことにした。
「日雇いでも良いですが、最低3年この街に居ることになりましたからね。そもそもどんな仕事があるのか。私も雪国は初めてで」
「そうね。魔法制限さえなければニンゲンの役に簡単に立ちそうだけれど。シプカでは農作業を魔法で効率化していたけれど、あれは戦時中の例外よね。普通の国では、おいそれと魔法は使えない」
「でも、ウリスマはエルレインのお陰でエルフに理解がありますからね」
「確かにそうよね」
情報を求めるなら飲食店か。それとも行政を頼るなら役所か。
まずは正攻法。役所か。
◇◇◇
「助かるよ。そもそもエルレインに頼んでいた仕事があるんだ。でもジンが帰ってきて、エルレインはこれから道場の仕事で忙しくなるだろう? あんたらが代わりにしてくれたら心強い」
役所では歓迎された。拍子抜けというか、なんというか。こういう正攻法では差別されて追い出されるのを覚悟していたから。
「何をすれば良いの? エルレインの代役ということは、魔法を使っても良いのね?」
「こんな田舎まで中央政府の役人なんか来ないからな。やって欲しいのは主に雪掻きだ」
雪掻き。
雪が積もると、屋根がその重さで破壊されるらしい。凄いことだ。
玄関前に積もると、家から出られなくなる。道が分からなくなると、天然の落とし穴にもなる。
危険だ。
雪は重い。力仕事だ。ウリスマは子供や若者が少ないらしい。皆、列車の通っている大きな街へ行ってしまうのだとか。
高齢者が屋根に登ったり、重い雪掻いたり、それを遠くまで運んだりするのは大変だ。
「火や水で溶かしたり流すのはやめてくれよ。溶けた雪がまた凍ると、ツルツルに滑って転けて骨を折るんだ。それに、配管なんかが破裂したりする」
「分かったわ。あくまで雪掻きね」
強い風で吹き飛ばすのも良くない。街中だと、どこへ飛ばしても誰かの迷惑だ。
「ふむ。面白い仕事ね。魔法を使って良いのなら、色々試せそう」
「エルル?」
雪掻きの仕事を請けてから、屋根の上へ飛んで登る。そこから街を眺める。街の、屋根を。
今日の雪は弱い。ちらちらだ。
「私ね。諦めてないわよ。このジンの修行中に、もう一度カナカナに挑むわ。負けたままじゃスッキリしないもの。私の魔法の修行もしなきゃいけないの。この雪掻き、利用させて貰うわ」
「…………付き合いますよ。私もエルルには勝って欲しいので」
「ええ。まずは――」
雪掻きの仕事としては、アルニアは普通であるという。この国は、キャスタリア大陸中部なのだ。
北部はもっと酷い豪雪地帯らしい。私達の目指すエルックリンも北部。
まずはこのウリスマで、雪国に慣れなければならない。そう考えると、ここでどっしり構えることになったのは良かったのかもしれない。
「石礫生成。まずは普通に、スコップを使いましょう。魔法で自動化に組み込めると思ったらやってみるわ。それを、少しずつ広げていく。目標は、全世帯全自動魔法雪掻きシステムの構築ね。完全自動化はやったことないけれど」
「さらっととんでもないこと言いますね……。複合魔法省略の魔術、この機会に教えてください。フーナ姫と共同開発したそれ、私は結局使えないままなんですから」
「ええ。勿論。ルフにもレベルアップして貰わなくちゃね」
「はい。皆で強くなりましょう。皆で、A級に」
修行をするのは、ジンだけじゃない。彼が頑張っているのに、私達がぼうっとしている訳にはいかない。




