表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフの姫  作者: 弓チョコ
第1章:楽園と地獄の狭間で
22/300

第22話 楽園から聴こえる地獄の声

 その日は時間的に、それで終わった。ルフが、女の楽園であるこの森を建てたのは、男性であると言い残して。


「今日は街を()()()回るわ。試したい魔法があるの」

「かしこまりました……?」


 ニンゲンの耳は、エルフより短く小さい。……いや、エルフは少数種族だから、言い方が逆なのか。オルスは、ニンゲンの国だから。


 エルフの耳は、他の種族より長い。


「魔力を風に乗せて、その風の経験を、魔力として再度取り込むことができるのよ。ニンゲンの機械で例えると、レーダーというものに似ているかしらね」

「……レーダーの、魔法……ということですか」

「このやり方が、これまで既存の魔法には無くて、私が名付けるなら、そうね……」


 魔法は、私にとってとても興味があるものだ。日々練習して、できることを増やそうとしている。


 巨大樹の上まで風の魔法を使って昇る。ルフも魔法無しでなんなく付いてくる。ああこれくらいなら、戦闘員として訓練を経たエルフはできるのか。……彼女は、どこから来たエルフなのだろう。


 耳を澄ます。皆の、会話を聞きたい。姫の前ではしない会話を。


「……地獄耳の魔法、かしら」


 あまり良くないかもしれない。けれど、何を言っていようと私は誰を咎めるつもりも無い。他言はしない。知るだけだ。

 エルフの姫として。






◇◇◇






「おはよー」

「はーい。おはよ〜。今日も暑いね〜」

「はー。だりー。朝から便所掃除かよ」

「トイレって言いなさいよ。ベンジョとか、下品なオスじゃないんだから」

「いや、あたしここで働いて分かったわ。女だろうがクソオスだろうがケツから出るクソはクソ」

「なによ、脂まみれ不摂生のオスより、色々気を遣ってる女性の方が便は綺麗よ」

「いーや、クソはクソだね。必要な仕事だけど、今まではオスがやってくれてただけ。オス出禁のここじゃ、誰かがやらなくちゃならない。全く、クソだね」



「あー、しんど……。なんでアタシがこんな仕事しなきゃいけないの。力仕事なんてクソオスにやらせりゃ良いのに」

「いやいや、ここには女性しか居ないんだから、全部私達でやるのよ」

「外から業者呼べば良いじゃん。あー腰いた……」

「男子禁制だっての」

「いやそれは、業者なら良いじゃん」

「駄目です。ほら、愚痴ってないでそっち持って」

「うへえ……」



「良いよな姫様とか女王様は。ずーっと巨大樹の宮殿でのんびりして。あたしらに全部働かせんだもん」

「こら、不敬よ。女王様はこの楽園を創ってくださったんだから感謝しないと」

「そーだよ。楽園だと思ってたんだよなあ。鬱陶しいオスも居なくて、痴漢も無くて。けどそれ結局さあ……。ホストも無いし、アイドルも居ないし……。周りは女ばっかでつまんない」

「何を言ってるのよ。男性が居ないのよ? 私はそれだけでもう、最高。どんな仕事でも楽しくできるわ」

「へえ。染まってんね。エルフェミ」



「ちょっと! 今ぶつかったわよ! 謝りなさいよ!」

「はあ? あんたがデカいのよ。モテる必要無いからってぶくぶくぶくぶく」

「はぁぁあ!? ハラスメント! 体型差別よ! ちょっとおまわりさん!」

「うーわ、めんど……。体型は客観的事実だろ」



「防衛費!? はあ!? それ、戦争するってことですか!?」

「いやいや……。ここが攻められた時に無策だったらすぐに滅びるでしょう? ただでさえここには男性の軍隊が居なくて、武力が低いんだから」

「嫌です。戦争反対です!」

「いやだから、それは皆、私もそうなんだって。けど現実問題、軍隊が無いと容易く攻められるんですって」

「絶対ありえません。なんなんですか。あなた達は戦争したいんですか?」

「いやだから……。しないために、自国内での防衛力は必要だって話で」

「そんな野蛮で危険なことにお金を使うなら、もっと福祉とか、子育てとかに使ってください! 戦争なんて絶対反対です! そんな男性的な発想、あなた実は男性なんじゃないですか?」

「いやだから……。なんで会話ができないんだろう。そもそも女王様だってね……」






◇◇◇






「…………ねえ、ルフ」


 気付けば汗が吹き出していた。これは暑さのせいじゃない。

 動悸が止まらない。


「はい。エルル様」

「……この巨大森は、本当に、女性の楽園なのよね?」


 私は、聴こえた会話をルフへ話した。正直、気分が悪くて今日はもう休みたかった。

 ルフは、ゆっくりと口を開いた。


「いいえ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ