第218話 思うより大きい天才と例外の間
「それで、ジンの修行にはどれくらい掛かるのかしら」
「最短で3年は要るな。こいつの成長次第だが、延びりゃ10年。魔導は『道』だから終わりはねえ。修行自体は一生だ」
3年。
待つこと自体は問題ない。私もルフも。
けど、母からの報せ次第では間に合わなくなる。ギリギリだと思う。
では私とルフだけでエルックリンへ?
それこそ自殺行為だと分かりきっている。
「そもそもあたしのカリキュラムは10年で組んでる。才能ありきでな。見込みのあるガキしか見ねえつもりだ」
「ジンは、私達がエデンを出港してからすぐここへ?」
「いや、まずはエデンで基礎を学び終えるのが先だと思ってさ。姉ちゃん達と別れて1年訓練校に通ってた。卒業後にC級登録して、ギルドマスターの紹介でこっちに来たんだ」
「じゃあこっちで魔導術の修行をしたのは実質3年くらいなのね」
「そもそもだ」
「!」
カナカナが、人差し指を立てた。
「10代で冒険者、それも魔界入りなんざ、死に急ぎなんだよ。ジンの親父でさえ23とかだ。ゲンのクソはギリギリ19だったが、あれは例外。運、才能、環境。全て高水準で揃わねえと不可能な領域だ」
「ゲンを知っているの!?」
驚いた。急に。不意に。父の名が出た。
「そりゃ、ギルド内じゃ超有名人だろ。この世のエルフ族全てを敵に回した大罪人。冒険者ギルドへの風評被害にも一役買ってるし」
「…………そうね」
「だからあんたも有名人なんだよ。エルル」
「…………ええ」
一般人は知らないことだ。けれど、冒険者は皆知っている。
私と父の名前は、私が思うより大きいのだ。
「話を戻すが、ジンには才能がある。運は分からねえが環境は良いだろ。だが、それぞれの絶対値が及ばねえ。素直で真面目な性格ってのもあるだろうな。本来冒険者向きじゃねえ」
A級だったヒューイの息子だ。才能は充分だろう。既にあのエルドレッドを倒す実力がある。戦闘能力は天才的だ。
「ニンゲンが亜人や魔族を相手にする手段として、魔導術ってのはそのひとつに過ぎねえ。ヒューイやゲンは魔導士じゃねえ。つまりは、ジンは魔導に頼らねえといけねえ程度の才能ってことだな。天才と超天才の間だ」
「…………喜んで良いのか」
「この場合は悲しめ。お前は天才だが、例外じゃねえ。お前程度の天才はA級にゃゴロゴロ居る」
「…………なるほど」
そもそも、ただのニンゲンが魔界入りできる時点で天才だ。そういうライン。
だけど、魔界入りを基本とするなら、その中でジンは平凡なのだという。
具体的には、10代の内に魔界入りは諦めなければならないくらい。
「あ。また話の腰を折って悪いのだけど、私達がエルックリンに行かなくてもドラゴンは来るわよね。誰かが討伐しないと被害が出るわよね」
「ああ、手配してある。ギルドマスターから手紙を受け取った時にあたしが」
「え?」
「……その『例外』だよ。B級冒険者をひとり行かせる。あいつなら問題なくドラゴンを狩れるだろ」
「あいつ?」
定期的にドラゴンは出現する。それを討伐か撃退か、毎回しなければ人類は滅びるかもしれない。少なくとも周辺国は危ない。冒険者だけじゃない。軍隊を投入して、戦争になる。
「モナだよ。モナ・アプリーレ。あいつは確か今年17歳のニンゲンの女だが、既にミーグ大陸で海竜の『単独』討伐実績がある。そろそろA級取る気になったらしい。エルル、あんたと同じ『六化六強』の候補だ」
それを。




