第216話 試す中途半端な冒険者
「無理だ。諦めろ」
「えっ!?」
私達は、これからジンの修行を再開して。冬をこの街で越えてから、春にキャスタリア北部エルックリンへ。そして、A級昇格試験を受ける予定だった。
それを話すと、カナカナは否定した。
「まず、アホジンの修行はそんな数ヶ月じゃ終わらねえ。未完成な魔導術でドラゴンなんざ討伐できねえ。それに、中途半端な修行で外へ出るのが危険だ。そもそもあたしは前回エルルを助けに修行を中断したことも許してねえし、あたしの魔導剣も無断で持っていったことも許してねえ」
「う……!」
ぐさぐさと、カナカナの言葉がジンを刺す。
「……まあ、それについてはエルルの命が掛かってたから、百万歩譲って許してやらんでもない」
「師匠……!」
「だが、試験は別だ。確かにギルドマスターから手紙で来てたが、ドラゴン討伐なんざ不可能だ。てめえら3人掛かりでも、あたしを殺せねえだろ」
「!」
ルフと。
ジンと、視線を合わせた。
無理なのだろうか。私達が本気でやっても。
「…………はっ。納得してねえのはジンじゃなくてあんたか。エルル」
「…………」
ルフは、諦めていた。彼女は納得するのだろうか。
ジンも戦意が無い。そもそも師匠には頭が上がらないのだろう。
「……そう、ね。決してあなたを見縊るつもりはないのだけど。不可能とは思えないわ」
立ち上がる。多分。
これが私の役目だから。
「まあ、そこからだな。ここからもう少し山を登った所に丁度良い平らな広場がある。建物もねえし多少暴れても平気だ。やろうか。――『エルフの姫』」
「ちょっ。師匠!?」
「ええ。ジンの師匠。魔導術師。気になるもの。試してみたいわ」
「エル姉ちゃんも!?」
ジンの修行に時間が掛かるのは良い。中途半端な魔導では却って危険というのも分かる。けど。
今の私達でも、ドラゴンどころかニンゲンひとり殺せないというのは、ちょっと。
◇◇◇
陽が昇りきった。雪は少し止んだみたい。丘からさらに登った先の広場にて。
カナカナと距離を取って向き合う。
彼女は道着というゆったりとした前合わせの上着のままだ。その手には、ジンと同じく黒銀の魔導手袋。あれで魔法を弾くのが魔導術。
剣は持っていない。使わないつもりだ。
「師匠……。エル姉ちゃん……」
「どちらが勝つと思いますか? ジン」
「えっ。それは……」
横でジンとルフが見学している。
「いつでも良いぞ。『参った』つったら負けだ。あと気絶でも負け。良いな?」
「ええ。多分万国共通の決闘ルールね」
カナカナは屈伸をしたりストレッチをしたりしている。軽い運動のつもりだろうか。緊張感は無い。
私は、彼女を侮ってはいない。試してみたいのだ。
今の私の、実力を。
「氷柱生成。――石礫生成」
「!」
まずは、ジンを破った技を。175個の氷柱と225個の石礫を生成。あの時より多く。時間差で射出する。
「射撃!」
「全方位弾幕か。えげつねえな」
カナカナは。
ジンが必死に剣で撃ち落としていたそれらを、笑いながら叩き落としている。
片手で。
「おいおい、あたしが移動したら着地点ズレてそもそも当たらねえぞ!? しっかりしろ魔法使い!」
「っ!」
見切られた。けど。
「氷結!」
足元を凍らせて動きを封じれば。
「甘いな」
「!?」
雪に隠して彼女を襲った氷は。
彼女に蹴られて割れた。
そうか、黒銀は脚にも。
「距離詰めるぜ」
「うっ!」
その一瞬で。
目と鼻の先まで、詰められた。速い。追えない。
咄嗟に、風のバリア。
「おっと」
を、黒銀で破られる。
「捕まえた」
笑顔で
胸ぐらを掴まれて。
「よいっしょぉっ!!」
一回転。
私は投げられるように、背中から地面に叩き付けられた。




