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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
212/300

第212話 掻き混ぜられる弱い意地

 大事を取って、この街には4日滞在することにした。ジンもルフも、なんだかんだ疲労は溜まっている。


「本当に大変だと思うよ。女性って」

「…………」


 買い出しの後。私が目覚めても、外に出ようとしないジン。


 その、私を見る目が。

 自分でも何故か分らなくて。


 少し不快だった。


「…………待ってジン」

「えっ?」


 熱が出ている。気分が悪い。じんじんと身体の中が痛い。

 苛立っている。それは自覚している。彼は悪くない。

 それは自覚している。


「……私を、憐れまないで」

「!」


 だから。

 きちんと伝えなければならない。感情に支配されてはならない。

 私の半分は『冷静なニンゲン』の筈だ。


「私を、『弱く可哀想』だと、思わないで。あなたに、守って貰えるのは嬉しいのよ。だけど私は。私も、強くありたいの。これは私の戦いなの。私はおんぶに抱っこで、A級になんて上がりたくない」


 恥ずかしいのだ。ルフに世話されるのは特に何も思わないのに。

 自分の弱い所を、この男性に見られたくないと思う私が居る。


 女性だからというたったひとつの理由で、『弱いから守らなければ』と結論を出して欲しくない。

 同情をされたくない。


「エルル?」


 ルフが心配の声を挙げる。違うのルフ。私は。


「ねえジン…………」


 部屋は、魔法によって暖かい。彼の顔が赤いのはそのせいだろうか。


「…………」


 どう伝えれば良いのか分からなくなった。そもそも何を伝えたかったのだろうか。


「エルル。もう喋らないでください。体調が戻ってから、改めて話しましょう」

「………………」


 ああしんどい。声を出すのも、もう辛くて。沈黙で返事をした。


「ジンも。汽車の時間を調べてきてください。スムーズにこの街を出られるように」

「わ、分かった。……ごめん、エル姉ちゃん」

「………………」


 ジンが申し訳無さそうに出ていった。


 申し訳無いのは私の方だった。彼にあんな顔をさせた。

 謝って欲しかったのか? 違う。断じて。 


 女性だから、大変だと言われることに、苛立った筈だ。

 けれど。

 今は私は確実に大変で。その理由は女性であるからだ。ニンゲンの女性の、ハーフだからだ。

 それは事実。

 では何故、苛立つことがあるのか。


 意識と発言に一貫性が無い。論理的ではない。


 ……くそ。


「……心配してくれた彼に、恥をかかせた」

「いいえ。あれは発情していたのです」

「…………え」


 頭の中がごちゃごちゃだ。いつもこうだ。侵蝕してくる魔力が、私の脳を掻き混ぜているのだろうか。

 自分でも、自分が何を言っているのか分からなくなってきた。


「股間を見れば分かります。良いですか。エルルは彼にとって、『姉ちゃん』なのです。精神的に頼れる大人と言って良い。その姉ちゃんが、弱っている。守りたくなる。……顔が紅潮している。たとえそれが発熱によるものだとしても。……彼を責めはできませんよ。男性の通常反応です。男性は、自身の()()を100%コントロールできるものではありません」

「………………それで退室させたの」

「はい。恐らく戻ってくるのは夜でしょう」

「…………男性も大変じゃない」

「はぁ。それとこれとは別ですよ。彼のそれは0からプラスの行為。エルルは今、マイナスですよ。体調が戻っても0に戻っただけ。それに、『欲求』ではありません」

「………………」


 大変じゃないの。彼にとって、私達と旅をすることは。

 我慢の毎日ということだ。


 私が、未だ性行為に対する恐怖から克服できていないから。彼を待たせてしまっている。

 ルフは、最初は私に譲ると言って聞かない。


「…………私達は、何でも言い合えて。通じ合える。……そう在りたい。のに」

「お願いですから、自分を責めないでください。誰も悪く無いのです。誰も、何も」


 どうして、私にはニンゲンの血が流れているのか。

 父を恨んでも、この苦しみは無くならない。


 なのにニンゲンでなければ、彼の子を……。

 違う。

 ええと。


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。


 女性でなかったとしても。

 私は今、弱い。

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