第211話 繰り返す自問自答
そうして。
山を登り。降りて。登り。
殆ど町や村には寄らず、進んで。
時には無理矢理魔法を使って進んで。
キャスタリア大陸を南北に分割する、大山脈。
その尾根を越えて、辿り着いた。
アルニア国。
標高の高い高原が広がる、綺麗な国……と聞いていたけれど。
「もう、雪が積もっていますね。ギリギリセーフですね」
雪原が広がる綺麗な国だった。
「あー。懐かしい。そっか。南から来るとこっちに出るよな」
尾根から街を見下ろす。国全体が大山脈の一部だ。とんがり屋根の建物。街と街の間には雪原が広がっている。地図上では小国とは言え、オルスの3/4程度の国土はある。
おでこに手を当てて景色を眺めるジンが嬉しそうにしていた。
「関所は殆ど素通りだったわね」
「まあ、犯罪者は南からは来ませんからね。そもそもギルドの冒険者は受け入れやすい国なのです。大山脈まで税金を投入しないキャスタリア中央政府より、貢献してますから」
「そうなの」
白い息が出る。
並んで眺めていると、ぴゅうと寒い風が来た。
「〈カロル〉。…………街には入れるのかしら。私、そろそろ危ないわ」
全員に〈カロル〉を掛ける。
「ジン?」
「うん。降りよう。師匠の所には列車で行くんだけど、まずは身体を休めなきゃね。エル姉ちゃんの体調のこともあるし、とにかく宿屋だね。案内するよ。俺も初めて来る街だけど、多分大丈夫」
取り敢えずは、予定通り。
旅は順調だ。
◇◇◇
「……やはり無理をしていましたね」
ジンが宿を取ってくれて。
部屋に入った途端、私は力が抜けてしまった。
家族用の大きな部屋。ひとりひとつベッドがある。お金は大丈夫だろうか。
ベッドに運ばれてから、ルフに睨まれた。
「ええ。でも、ペースを落とす訳にはいかなかったから」
「分かっています。私だって、何も言いませんでした」
「……そっか。魔力探知でどれだけ侵蝕が進んでいるか分かるのね」
「…………今、ジンに買い出しをお願いしています。寝てください。今日はもう」
「…………ええ。甘えるわ」
やはり私の身体は、旅に不向きなのだ。危険と隣り合わせの自然界でこうなる訳にはいかないのに。
でも、今回はきちんと計画を立てていたから、防げた。
――時々、思う。
こうまでして、旅を続けることに。意味はあるのか。価値はあるのか。ふたりに迷惑を掛けて。心配事を増やして。
旅が。冒険が。自然が。世界が。私を拒絶しているのに。
こんなにしんどい思いをしてまで。苦しい思いをしてまで。本当に、そんなにやり遂げたいのか。
楽な道はあるじゃないか。エルフの姫として、今からでも遅くない。どこか強く地位のある男性の嫁に入って。安全に暮らせる。命の危険などない。痛く辛い戦闘などしなくて良い。
頭が痛い。お腹が重い。足が辛い。胸が苦しい。
挫けそうになる。
そして。答えを出す。いつも。
それでもやりたいと。
だとしても。
見たい景色があるんだと。
自然がなんだ。世界がなんだ。この、中途半端な身体がなんだ。
見たいと。知りたいと願った10年前の私に、そんな弱音は吐けない筈だ。
違う。
今も。焦がれているのだ。10年後の私から、弱音なんて聞きたくない。
目標は遥か遠く。だけど、一歩ずつ。旅はひとつずつ。
魔界の冒険は宿も使えないかもしれないから、魔力侵蝕の問題はどうにかしないといけないから。いずれは。
だけど今は。
「…………お休みなさい。エルル」
ルフの優しい囁きに甘えさせて欲しい。




