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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
211/300

第211話 繰り返す自問自答

 そうして。

 山を登り。降りて。登り。

 殆ど町や村には寄らず、進んで。

 時には無理矢理魔法を使って進んで。


 キャスタリア大陸を南北に分割する、大山脈。

 その尾根を越えて、辿り着いた。


 アルニア国。

 標高の高い高原が広がる、綺麗な国……と聞いていたけれど。


「もう、雪が積もっていますね。ギリギリセーフですね」


 雪原が広がる綺麗な国だった。


「あー。懐かしい。そっか。南から来るとこっちに出るよな」


 尾根から街を見下ろす。国全体が大山脈の一部だ。とんがり屋根の建物。街と街の間には雪原が広がっている。地図上では小国とは言え、オルスの3/4程度の国土はある。

 おでこに手を当てて景色を眺めるジンが嬉しそうにしていた。


「関所は殆ど素通りだったわね」

「まあ、犯罪者は南からは来ませんからね。そもそもギルドの冒険者は受け入れやすい国なのです。大山脈まで税金を投入しないキャスタリア中央政府より、貢献してますから」

「そうなの」


 白い息が出る。

 並んで眺めていると、ぴゅうと寒い風が来た。


「〈カロル〉。…………街には入れるのかしら。私、そろそろ危ないわ」


 全員に〈カロル〉を掛ける。


「ジン?」

「うん。降りよう。師匠の所には列車で行くんだけど、まずは身体を休めなきゃね。エル姉ちゃんの体調のこともあるし、とにかく宿屋だね。案内するよ。俺も初めて来る街だけど、多分大丈夫」


 取り敢えずは、予定通り。

 旅は順調だ。






◇◇◇






「……やはり無理をしていましたね」


 ジンが宿を取ってくれて。

 部屋に入った途端、私は力が抜けてしまった。

 家族用の大きな部屋。ひとりひとつベッドがある。お金は大丈夫だろうか。

 ベッドに運ばれてから、ルフに睨まれた。


「ええ。でも、ペースを落とす訳にはいかなかったから」

「分かっています。私だって、何も言いませんでした」

「……そっか。魔力探知でどれだけ侵蝕が進んでいるか分かるのね」

「…………今、ジンに買い出しをお願いしています。寝てください。今日はもう」

「…………ええ。甘えるわ」


 やはり私の身体は、旅に不向きなのだ。危険と隣り合わせの自然界でこうなる訳にはいかないのに。

 でも、今回はきちんと計画を立てていたから、防げた。


 ――時々、思う。

 こうまでして、旅を続けることに。意味はあるのか。価値はあるのか。ふたりに迷惑を掛けて。心配事を増やして。


 旅が。冒険が。自然が。世界が。私を拒絶しているのに。


 こんなにしんどい思いをしてまで。苦しい思いをしてまで。本当に、そんなにやり遂げたいのか。


 楽な道はあるじゃないか。エルフの姫として、今からでも遅くない。どこか強く地位のある男性の嫁に入って。安全に暮らせる。命の危険などない。痛く辛い戦闘などしなくて良い。


 頭が痛い。お腹が重い。足が辛い。胸が苦しい。


 挫けそうになる。


 そして。答えを出す。いつも。


 それでもやりたいと。

 だとしても。


 見たい景色があるんだと。


 自然がなんだ。世界がなんだ。この、中途半端な身体がなんだ。


 見たいと。知りたいと願った10年前の私に、そんな弱音は吐けない筈だ。


 違う。


 今も。焦がれているのだ。10年後の私から、弱音なんて聞きたくない。


 目標は遥か遠く。だけど、一歩ずつ。旅はひとつずつ。


 魔界の冒険は宿も使えないかもしれないから、魔力侵蝕の問題はどうにかしないといけないから。いずれは。

 だけど今は。


「…………お休みなさい。エルル」


 ルフの優しい囁きに甘えさせて欲しい。

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