第21話 女性が男性を担う揺らぎ
国とは、国民がその安全と秩序の維持の為に、協力することが前提となっている。または、前提となっている法律が多い。
その国民が、ひとりひとり、自分のことしか考えない個人主義になってしまえば。緩やかではあるだろうが、国は徐々に、衰退していく。
今の時代は、その最中であるようだ。
「結婚をしなくとも、世間体を気にしなくて良くなりました。それに加えての、女性の男社会進出。本来のジェンダーとして、働くことが男性の役割でしたが、その役割を女性もが獲得していきました。そこで起きたのが、『私達も男性と同じように扱え』という主張です」
「同じように働いているのに、差別のせいで同じ扱いはされなかったのね」
「……実は、それは半分正解です。確かに実際に、そのような差別はありました」
「含みがあるわね」
くどいが、男女には役割がある。太古の昔から現在まで、生き物である以上必ず存在し、無くなることはない。
私は、ひとつ疑問が浮かぶ。女が、ジェンダー男性として働けば。誰が、いつ、子を産むのだろう。少子化は自由恋愛だけでなく、女性の男社会進出からも影響していそうだ。
いや、自由恋愛主義に変わった為に、結婚して子育てをすれば良いという常識が崩れたのだ。独身のままならば、女性であっても、食べるために自分で働かねばならない。男性のように。
「仕事とは、誰かの為に役に立つことです。需要があって、供給が発生します。これは基本です」
「それは分かるわ」
「そして、オルスでは成果主義が基本です。仕事の出来高で、給与が決まります」
「……女性は、男性より成果を上げられないということ?」
「はい。勿論全員、全職に当てはまる訳ではありませんが、概ねその通りです」
そもそもの話、難しいことだ。仕事とは男性の方が成果を出しやすいから、男性の役割だった訳なのだから。確かにそうだ。例えば、力仕事は多くの場合男性が有利だろう。同じ時間働くとして、成果は明らかに差が出る筈だ。
「フェミニスト達は言います。『私達は筋力的に不利なことを一生懸命頑張っている』『男性よりずっと疲れている』『なのにどうして』『こんなに頑張っているのに、どうして男性と同じ給料なのか』と」
「…………気持ちは、分からなくもないけれど」
「エルル様。エルル様は新居を構える為に、住宅を注文します」
「え。……ええ」
「男性のみの建築会社と、女性のみの建築会社があります。その2社が、期間と値段の見積もりを用意してきました」
「ええ」
「男性会社は、2ヶ月で1000万。そして女性会社は3ヶ月で1500万という提示でした」
「…………なるほど。男性なら2ヶ月で終わる工期を、頑張って3ヶ月も掛かるのだから、その分金額が高いのね」
「はい。……どちらに依頼しますか?」
「…………」
そんなの。
クライアントからすれば、決まっている。
「男性の会社ね。こちらは早く住みたいし、さらに安いのだから。よしんば値段が同じでも、早い方を選ぶわ」
「はい。皆が皆、そうだと思います。これが成果主義です。依頼者は自由に選んで良い。誰にも責められることはありません。誰も悪くないのですが、結果として、女性は稼ぎにくいというのが実情です」
勿論、私はこの選択について、性別を決め手にした訳じゃない。工期と値段だ。つまり、同じ仕事を依頼するのに、より早くて安いのであれば、性別など関係無い。もし女性のみの会社でも、どこよりも早ければそちらを選ぶ。当然だ。
けれど現実。男性の方が、少なくとも建築に関しては早いのだろう。それは容易に想像できる。
「早い話。この巨大森をフェミニストの楽園にするに当たって、建物や設備の建築を担当したのは、男性です」
「えっ……」
女の園。歪ではあれど、そこは揺るがない筈だった……筈だ。
「ここは、男性が作ったのです。エルフィナ様……。女王様は、とにかく早く、楽園に住みたかったから」
揺らぐ。