第209話 受け入れ終えている関係
「土壁。……変形」
土は、いつも同じじゃない。その国、その土地、その気候によって違う。うまく形にして固まるように、適宜水分なんかで微調整しながら。
『かまくら』を作る。
「……こんな所ね。ある程度のものは規格化して、複合魔法として自動化して保存して良いかも」
「凄え……っ」
ジンが目を輝かせて驚いてくれている。オルスでの旅で見せたこと無かったかしら。いや、あの時は急いでいたから。
バドハ国東部の山中にて。
「これが今のエルルです。これが全属性魔法使い。初めて一緒に旅をする魔法使いがこれでは、ジンの感覚が麻痺してしまいますね」
「褒めすぎよ」
ルフも誇らしげだ。
「さらに〈カロル〉で中を暖めるわね。後は隣に穴を掘って温かいお風呂にでもしましょうか」
「魔力侵蝕は大丈夫ですか? ジンの前だからと無理に張り切らないでください」
「う……」
「図星ですか」
「あはは……」
私がやるのは、寝床まで。後はルフがやってくれた。ルフだって、マルチウィザードなのには変わりない。
「姉ちゃん達って、同じくらい魔法使えるんだ? レドアンで一緒に修行したから」
夜。土かまくらの中で、中心に焚火を置いて暖を取る。横から覗ける出入口からは、綺麗な星が見える。
この大自然で、ふたりと交わす会話が私の至福。
「いいえ。私は魔術を使えません。砂漠エルフの里でもアラボレアでも、その全てを吸収し昇華させたのはエルルです」
「魔術?」
「例えば、射撃魔法。魔力圧縮。生成した物質の変形。魔力を使った『高等技術』を、私は上手く扱えません。魔法自体はできるので、この土かまくらなどは『時間を掛ければ同じことはできる』という程度。長い時間を掛けて鍛錬を積めば分かりませんが……。とにかく魔法使いとしての才能が違います。魔力ステルスは、なんとか修得しましたが」
「そうなんだ」
「自分を卑下しすぎよ。ルフは私より長く魔法を使える。魔力侵蝕が無いから」
「それは、私が純血であるというだけです」
「でも純血エルフはこのパーティにあなただけだわ。私はすぐ息切れするもの。毎月何日も迷惑を掛けることになる」
「…………」
多分、この会話は。
ジンがこの場に居るから発生した。
「…………」
「……姉ちゃん?」
「ふふっ」
「あはは」
それが分かって、ルフと通じ合って。
ふたりで笑ってしまった。
「ネガティブねえ。自慢し合って、お互い褒め合ったら良いのに」
「私もそう思いました。私達は遠慮しすぎなのですね。ジン。私達は魔法使いとして、できることとできないことがそれぞれあります。どうやら『どっちが』という話では無いようです。エルル曰く」
「そうそれよ。それが言いたかった。分かった? ジン」
私達は互いの長所と、同じくらい自分の短所を知り過ぎている。
そして、お互いに受け入れ終わっている。
「……ちぇ。なんだかふたりだけの世界って感じ」
「あはは。そうね。私とルフのふたり旅も長かったから。ごめんなさいね。ふたりとも、あなたが居て気分が高揚しているのよ」
「せっかくパーティですし、お互いに何ができるのか把握しておかなくてはなりませんね」
「そうね。手の内全て曝しましょう。ジンあなたもよ?」
「俺は未完成の魔導術以外無いよ……」
夜は更けていく。
会話は、弾む。




