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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
209/300

第209話 受け入れ終えている関係

土壁(マッドウォール)。……変形(コンバート)


 土は、いつも同じじゃない。その国、その土地、その気候によって違う。うまく形にして固まるように、適宜水分なんかで微調整しながら。

 『かまくら』を作る。


「……こんな所ね。ある程度のものは規格化して、複合魔法(ユニゾン)として自動化して保存して良いかも」

「凄え……っ」


 ジンが目を輝かせて驚いてくれている。オルスでの旅で見せたこと無かったかしら。いや、あの時は急いでいたから。


 バドハ国東部の山中にて。


「これが今のエルルです。これが全属性魔法使い(マルチウィザード)。初めて一緒に旅をする魔法使いがこれでは、ジンの感覚が麻痺してしまいますね」

「褒めすぎよ」


 ルフも誇らしげだ。


「さらに〈カロル〉で中を暖めるわね。後は隣に穴を掘って温かいお風呂にでもしましょうか」

「魔力侵蝕は大丈夫ですか? ジンの前だからと無理に張り切らないでください」

「う……」

「図星ですか」

「あはは……」


 私がやるのは、寝床まで。後はルフがやってくれた。ルフだって、マルチウィザードなのには変わりない。


「姉ちゃん達って、同じくらい魔法使えるんだ? レドアンで一緒に修行したから」


 夜。土かまくらの中で、中心に焚火を置いて暖を取る。横から覗ける出入口からは、綺麗な星が見える。

 この大自然で、ふたりと交わす会話が私の至福。


「いいえ。私は魔術を使えません。砂漠エルフの里でもアラボレアでも、その全てを吸収し昇華させたのはエルルです」

「魔術?」

「例えば、射撃(シュート)魔法。魔力圧縮。生成した物質の変形(コンバート)。魔力を使った『高等技術』を、私は上手く扱えません。魔法自体はできるので、この土かまくらなどは『時間を掛ければ同じことはできる』という程度。長い時間を掛けて鍛錬を積めば分かりませんが……。とにかく魔法使いとしての才能が違います。魔力ステルスは、なんとか修得しましたが」

「そうなんだ」

「自分を卑下しすぎよ。ルフは私より長く魔法を使える。魔力侵蝕が無いから」

「それは、私が純血であるというだけです」

「でも純血エルフはこのパーティにあなただけだわ。私はすぐ息切れするもの。毎月何日も迷惑を掛けることになる」

「…………」


 多分、この会話は。

 ジンがこの場に居るから発生した。


「…………」

「……姉ちゃん?」

「ふふっ」

「あはは」


 それが分かって、ルフと通じ合って。

 ふたりで笑ってしまった。


「ネガティブねえ。自慢し合って、お互い褒め合ったら良いのに」

「私もそう思いました。私達は遠慮しすぎなのですね。ジン。私達は魔法使いとして、できることとできないことがそれぞれあります。どうやら『どっちが』という話では無いようです。エルル曰く」

「そうそれよ。それが言いたかった。分かった? ジン」


 私達は互いの長所と、同じくらい自分の短所を知り過ぎている。

 そして、お互いに受け入れ終わっている。


「……ちぇ。なんだかふたりだけの世界って感じ」

「あはは。そうね。私とルフのふたり旅も長かったから。ごめんなさいね。ふたりとも、あなたが居て気分が高揚しているのよ」

「せっかくパーティですし、お互いに何ができるのか把握しておかなくてはなりませんね」

「そうね。手の内全て曝しましょう。ジンあなたもよ?」

「俺は未完成の魔導術以外無いよ……」


 夜は更けていく。

 会話は、弾む。

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