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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
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第207話 貴重な冒険の途中

「……そう。汝、飲み込みが早いの。そのまま、魔力を浸透させよ。……名はこうだ」

「…………〈カロル〉」


 今の私でもできる古い魔法……九種紀時代の魔法を、ひとつ教えてもらった。これからの旅に役立つものだ。1度、8年半前に見たことがある魔法。


 任意のものを、温める魔法。その名はカロル。


「……どう?」

「うおっ。すげ……。あったけえ」


 ジンに掛ける。彼は人間だから、冬の旅は厳しい筈だ。これがあれば、うんと楽になる。


「……普通の熱魔法とは違うのですね。長時間効果が続き、『浸透する』という特性を持つ。こんな複雑な魔法が、5000年前では一般的であったと」

「わはは。魔素の使い方が異なるだけである。が、確かにコツは要るの」


 ――シャラーラの屋敷には数日滞在した。私の旅の様子を話すと、嬉しそうに聴いてくれた。少女の見た目なのに、こういう時は優しい老婆のようだった。


「アルニアであるか。キャスタリア中央、大山脈にある小国であるの」

「ええ。それからエルックリン。A級試験が終わったらまた来るわ。どうせレナリア大陸に行くのに、このラス港を使うから」

「ならば、本格的に冬が来る前に大山脈へ入らねばならぬの。さあほら行け。……汝らの冒険へ」


 正直、シャラーラの昔話は面白い。いつまでも聴いていたくなる。けど。

 そんな訳にもいかない。


 私達はまだ、冒険の途中だから。


「じゃあ、また来るわね」

「うむ。楽しみにしていよう」


 彼女の言う通り、急がなくてはならない。冬の山が厳しいことは、知っているから。






◇◇◇






「……凄く貴重なお話でしたね。正に歴史の生き証人。デーモンと友人とは、流石エルルです」

「ピュイアの紹介だから、私は何もしていないわ。……けど、そう。デーモンは、私の知りたい『知らないこと』を沢山知っている。それだけでも、残りのデーモンを探す理由になる」

「……それが、エル姉ちゃんの動機か」

「ええ。『知りたい』。私は『それ』で出来ている」


 そのまま、乗り合い馬車に乗ってラスを後にする。北西へ。


「アルニアまでは、どう行くの?」

「うん。ルフ姉ちゃんと話してたんだ。ラスからの馬車を乗り継いで、まずこのイレンツ国を西から出る。そこから徒歩で北上するんだけど、途中で北シプカ領に入るんだ。そこからまた馬車かな」

「シプカ……」

「エルル」


 馬車は大きく、私達意外にも客は居る。勿論全員がニンゲンだ。


「今、南シプカへは行けません。……エルルも分かっていると思いますが」

「…………ええ。分かっているわよ」


 南北シプカの内戦は。

 未だ、終戦に至っていない。一時はそう報道されたけれど。完全に終わった訳ではない。


 『休戦』だ。つまり、休んでいるいるだけで、まだ戦争中。

 北シプカへは、友好国であるイレンツ側……つまり今居るここからは入ることができるけれど。南へは行けない。

 ユーマンを始めとしたギルド支部の皆は無事だろうか。フーエール先生は。

 世話になったファル達は。

 無事だろうか。

 心配だ。あれから約9年経っている。


「……無理なら無理。気にしても仕方ないわ。けれど、無事を祈ることはできるわね」

「…………何に祈りますか」


 ルフには、エソン村でのことは話している。南北シプカ問題のことも詳しい。

 亜人を排する『神正教』の国だということも。


「……私は、特に何も信仰してないわ。その場合、何に祈れば良いの?」

「…………森林エルフ的には、通常は『自然の精霊』ですかね」

「……もしかして、ルフェルが信仰しているっていう?」

「はい。……巨大森では、教わらないのですね」

「………そう、ね」


 宗教。

 私はエルフの宗教を知らない。いや、宗教というのかすら。

 知らないことだらけだ。

 知る旅の途中。

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