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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第9章:太古から連なる愛情
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第203話 定義する魔に纏わる言葉

 魔素。この世界に満ちる元素だ。語源は勿論魔法を使う為の元素であるから。


 私達エルフに代表される亜人も、魔法を使えないニンゲンも、毎日毎分毎秒、呼吸をする度にこの魔素を取り込んでいることになる。


 亜人の身体には、魔臓(エーテル)という臓器がある。機能としては心臓や肺に近い。本物の心臓のすぐ隣にあるその臓器で、取り込んだ魔素を体内に満ちる魔力に変換する。


 魔素と魔力の違いは、自身の意思で操作できるかどうかであると、以前私が世話になったレドアン大陸の亜人病院で聞いた。

 魔力を使って、大気の魔素に望む動きを働きかけることができる。大きく動かして風にしたり、熱を与えて火を起こしたり。水分を集めて水の塊を形成したり、それを凍らせたり。凍らせたものをまた、風で押し出して飛ばしたり。

 それが、魔法だ。この世界の、『魔』という『法則』。これは、幼い頃に故郷であるオルスの巨大森で聞いた。

 魔素と魔力は、普通は目に見えない。酸素などと同じだ。けれど、私や母のように『魔力視』という特別な能力を生まれ付き持っている者が居る。魔力視の持ち主は魔力を目で視ることができる。その為、相手の魔法の動きや発生の起こりなんかを見たり、隠している相手が亜人かどうかを見極めたりできる。今の所、私と母のエーデルワイスの家系しか確認していない。魔界には私達と同じではなくとも、生来の特別な才能を持つ者も少なくないとか。


 そして魔術とは、魔の法則を利用した『技術』のことだ。応用と言っても良い。例えば、自身から自然に出る魔力を抑えて探知魔法に引っ掛からなくする魔力ステルスや、魔力そのものを圧縮して解放することで爆発を起こす魔力爆弾(マジック・ボム)を利用して、推進力として風で飛ばすよりも高速度高威力で敵に魔法をぶつける射撃魔術(シュート)が代表的だ。ステルスはドラゴニュートであるユラスから見て学んで、射撃(シュート)はアラボレア山のドワーフの姫、フーナに教わった。

 魔術は、その多くが魔界に伝わるものらしい。魔法の効果を飛躍的に高めるので、機会があればドンドン覚えていきたい。


 最後に、魔界のニンゲンが魔法使いである亜人に対抗するために編み出したのが、魔素を操って望む方向へ導く、『魔導』の術だ。私の近くではジンが使い手だ。私が射出した攻撃魔法を不思議な力で弾かれて、魔法が命中しなくなる。これには魔力は使われていない。専用の特別な道具を用いて仕様される。ジンの場合、大剣と手袋だ。大剣は師匠から借りているらしいけれど。

 因みにこの魔導は、亜人にはできないらしい。使用者から魔力が出ている関係で、上手く思い通りに作用しないらしいのだ。正にニンゲンの為の技術。






◇◇◇






 以上が、私のこれまでの20年間のエルフ人生で、実体験を込みで学んできた、魔の道――『魔道』の概要だ。


「……ここまでは、言ってしまっても良いの。やつがれは、この惑星(ほし)のこの時代で呼ばれる、魔素、魔力が存在していない世界からやって来た」

「!」


 屋敷の裏、すぐ崖の近くの広場のような場所。観光客は立ち入れない私達だけの空間。そこでシャラーラは、語り始めた。


「星? シャラーラは、宇宙からやってきたってこと?」

「その通りである。天より原初の種族が降り立ったなどという神話があるであろう。それである」

「…………な、なるほど……」


 ジンが驚く。

 私は、それは知っていた。以前シャラーラ本人から聞いたからだ。別の惑星からここへやって来たと。宇宙飛行士であったのだと。


 1万年前に。


「しかし。やつがれの居た世界でも、魔法と呼ばれる物は存在した。現代のものとは原理が全くの別物であるがの。……『古代魔法』とでも呼ぶかの」

「古代魔法……!」


 シャラーラが魔力を感じて、私が見えなかった、魔導の道具。

 つまりそれは。


「魔導術の道具には、古代魔法が使われているということね」

「わっはっは。すぐに答えを言うの。汝は」


 全く知らなかった、新しいことを学ぶ。

 胸が熱くなる。高揚してきた。

 正に、私が冒険者として覚えたかった感覚だ。


「…………!」


 だらしなく口角が上がって、ぶるりと身体を震わせた。

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