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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第8章:約束を果たす儀式
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第196話 頭に残る彼との試し合い

 綺麗になったな――。


「では次。水玉飛ばし(アクアボールブロウ)

「よっ。……わっ。水飛沫は掛かるな」


 養成所の運動場を借りて、ジンと試し合いをしている。今日は、彼に私の魔法を見せることと、彼の『魔導術』を見せてもらうこと。


 私の飛ばした水の塊は、彼の両手に着けている黒い手袋を起点に、込められた魔力が霧散するように弾けた。

 定点に留まる魔力の働きが消えたことで、水玉は飛沫となって彼を濡らしつつ水溜りとなった。


「では次。火の玉飛ばし(ファイアボールブロウ)

「おわっと。ほい」


 続く火の玉も同様。彼が構えて、火の玉を受け止める。同時に私の干渉から外れて、空中に消えた。


「では次。氷柱飛ばし(アイシクルブロウ)

「よっと」


 氷柱は水や火と違って個体だ。これは飛んでくる方向に対して横から弾くように、彼の手袋を起点に軌道が逸れた。


「…………凄いわね。折角覚えた攻撃魔法が尽く通用しないなんて」


 彼の戦いはオルシアで見たけれど。実際に向き合うとその圧力は別物だ。あの時、彼はエルドレッドの本気の魔法すら凌いでいた。


「でもエル姉ちゃん、本気じゃないでしょ」

「そりゃ、怪我でもしたら大変じゃない」

「良いよ」

「えっ」


 ジンはにやりと不敵に笑って、背中の大剣を抜いた。これも、あの手袋と同じ素材が使われている『破魔の剣』だ。師匠から借りているらしい。エルドレッドとの戦いでも使用していた。


「エル姉ちゃんの本気、見てみたい。俺は受けるだけに専念するから」

「…………分かったわ」


 冒険者の血だろう。自分を試さずにはいられない。その気持ちは。


 分かる。


氷柱精製アイシクルジェネレイト石礫精製(ストーンジェネレイト)


 反撃を想定しなくて良いなら、試したいことは沢山ある。私はエルドレッドより魔法が弱い。普通に考えたらジンに全て防がれる。けど。

 エルドレッドとの戦闘を見ていたのだ。ジンの魔導が初見ではないということ。だから、対策ができる。


 125個の氷柱と、155個の石礫を出現させる。球状に配置して、ジンを取り囲むドームを作る。

 その全てに。魔力爆弾(マジックボム)を付けて。


射撃(シュート)!」

「ぅ………ぉぉぉおおおお!!」


 時間差で、一斉に射出する。周囲360度全ての方向から、氷柱と石礫が彼へ向かって襲いかかる。


 彼の動体視力と剣捌きは一流だ。叫びながら、高速で打ち落としていく。


 これで両手は塞がった。


凍結(フリーズ)!」

「!?」


 彼の立つ地面を凍結させる。つるりと足を滑らせた。


突風(ガスト)


 風による足払い。彼は転倒した。


「おわっ!?」

「ストップ」


 ピタリ。


 12個残っていた氷柱と、21個残っていた石礫が、倒れた彼を貫く寸前で止まった。


「…………私の勝ちね?」

「はは……。あー。そういう攻め方の対策してなかった。完敗だよエル姉ちゃん」


 手を差し出す。彼は大きな手で握り返してくれて、殆ど自分の力で立ち上がった。まあ、私に彼の体重を支えられるほど力は無いのだけど。


 というか、今のは私が反撃を受けない前提の戦いだった。彼も本気ではなかった。華を持たせてくれたのだ。

 例えば、私の速力だと彼から逃げられない。魔法を数発受けても問題無いであろう彼は、氷柱を受けつつ私に迫って斬ることが可能だ。エルドレッドなら尚更。


「……まだまだね。お互い」

「うん。エル姉ちゃん――」

「なに?」


 目が合う。視線は彼の方が高い。私は見上げる姿勢。


「…………いや。ええと。俺、この後町の友達と会う約束してて。夜には帰るから」

「そう。行ってらっしゃい」


 何か言いかけたように口をぱくぱくさせてから、そう言った。そして、逃げるように運動場から去っていった。


「…………」


 ゲンの言葉が頭に残っている。

 ジンは私のことを、どう思っているのだろう。これまで言われたことが無いのだ。


 綺麗、だなんて。

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