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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第8章:約束を果たす儀式
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第195話 揺れる詐欺師との主導権

 大森殿の裏にある、樹牢の間にやってきた。勿論ひとりだ。誰にも会わせるものか。


「元気そうね」


 樹牢。丸い球体のような空間を作って成長する植物。エルフの間では罪人を閉じ込めておく牢屋として使用している。

 一番大きな樹牢に。私の父親が幽閉されている。


「…………そう見えるか? 飯の量が減った。お前の指示だな」


 前回会ったのは、8年前だ。彼はあれから随分やつれていた。


「ええ。貴方の食費は私の冒険者としての稼ぎから出すようにしたの。私、殆どギルドの依頼はこなしていないから。ごめんなさいね」

「…………なるほど。良い案だ。人は、空腹だと頭も身体も働かなくなるからな」

「魔界へ行くわ。数年後。ミーグ大陸から大運河を渡って、レナリア大陸のプレギエーラに」

「…………そうか。エルフィナの使者になったのか。アーテルフェイスに新しいエルフの姫が生まれたな」

「何か、アドバイスはある?」

「あん?」


 頭、回っているじゃない。この男は嘘ばかりだ。


「また、何年も貴方に会えないわよ。今、有益なことを教えてくれれば食事の量も質も以前に戻すと約束するわ」

「………………なるほどな。エルルお前……」

「何?」


 あなたの命は私が握っている。あなたの態度次第で、情けを掛けてあげる。

 そういう状況を作ったのだ。


 しかし。


「綺麗になったな」

「!?」


 彼はなお、笑っていた。


「周到に相手を追い詰める人間性を持ったエルフに育ったな。この8年、世話役もお前の情報をくれなくてよ。まあ安心したぜ。流石俺の娘だ」

「負け惜しみを」

「いやあ。マジで嬉しいんだ。分かった。良いコト教えてやろう」

「………………」


 主導権は。

 もう、どちらにあるのか分からなくなった。


「プレギエーラはレナリア大陸じゃ小国だが、最も歴史のある国でもある。九種紀の『竜人族』の直接の末裔だ。大長老(ジジイ)の言う、名を失った一族だ。分かるな?」

「…………イェリスハート」

「そうだ。『真名返還』のチャンスだ。同時に、九種紀のイェリスハートと繋がりのあった魔人族(デーモン)の情報を得るチャンスでもある。…………エーデルワイスとしての仕事だけじゃなく。もっと親密になれ。お前と同世代の『竜の姫』が居る筈だ」

「……竜の姫」


 復唱している。私が。

 彼の言葉を、忘れないために。


「この時期だと、A級昇格はエルックリンのドラゴンだろう? 種類は恐らくブリザードウォールかスプリングストームだ。討伐後、顎にある『逆鱗』を採取して手土産に持っていけ。ドラゴニュートは排他的な種族だが、竜殺しには一定の尊敬がある。それで受け入れてくれる筈だ」

「…………分かったわ」

「これで、俺は毎食ステーキか?」

「!」


 プレギエーラ王族はイェリスハートの末裔。そして、逆鱗のこと。この人からでないと得られなかった情報だ。

 もう20年近くこの樹牢に閉じ込められているのに。本当に、何なのだこの男は。


「……以前に戻すだけよ。あなたの言っていることが事実だと確認できて、私達が無事に魔界から戻って来られたら、ステーキにしてあげる」

「楽しみにしてるよ」

「…………私がドラゴンに負けることや、魔界で死ぬことは考えないのね」

「死ねば終わりだ。考えるだけ無駄だろ。俺は常に、全てが上手く行った時のことしか考えないぜ」

「……そう」


 彼に髭は無かった。髪も短かった。確かに食事は私の指示だけど。それ以外は指示が無かったと、世話役のエルフを懐柔したのだろう。強かな男だ。ニンゲンの詐欺師。


「じゃあね」

「ああ。またな。俺の愛する娘」


 無視。

 彼の視線を背に受けながら、その場を後にした。

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