第194話 人類より強い相手の討伐試験
翌日。私達は3人で最初に、大森殿を訪ねた。
森の集落では子供達が駆け回って遊んでいた。大長老の最後の子供達だ。以前は赤ん坊だったけれど、もうあんなに大きくなって。
「よく戻ってきたのう。エルルにルフ」
「ええ。私はまだ生きているわ。今度、魔界へ行くけれど」
「…………構わぬ。好きに生きよ。わしらにできることがあれば力は貸そう。……エルフの姫よ」
やはり少年の姿で鎮座していた。そして、もう私を引き止めたりはしない。子らが健やかに育っているということも理由のひとつだろう。彼ら彼女らが入れば、私はいずれエルフ種族にとっては必要なくなる。私が冒険の末に倒れても、次のエルフの姫はここに居る。
私は気兼ねなく冒険に集中できる。
「会われないのですか?」
「ええ。後でひとりで行くわ。今日は先にやることがあるし」
「?」
◆◆◆
「はい。これで手続きは完了です。A級冒険者ジンさんはB級パーティ『ニンフ』に加入しました」
ギルド本部にて。
書類をトントンと机で整えた職員の女性からそう言われて。私はルフとハイタッチをした。
「これでようやく揃いましたね」
「ええ。というかこの5年でBに上がるとか言っていたのに、どうしてもうソロA級なのよジンあなた」
「いやあ。基本的なサバイバル技術あって、それから魔導士ってそれだけでA評価らしいんだよな。俺まだ初歩だけなのに」
因みに、既にA級であるジンが加入したからといって、ニンフがすぐA級パーティということにはならないらしい。まあそりゃそうか。
「ランクアップの審査はどうやって受けるのかしら」
「座学と実技があります。座学はエデンで受けられますが、実技はキャスタリア大陸北部、大陸統括支部があるエルックリン山で行います」
「座学。意外ね」
「魔界の環境、歴史、文化などの基本的な知識を試験します。なお、魔界の最新情報ではないため、それを了承していただいた上での試験です」
「エルル。例えば魔界の山には『知らずに触れれば即死する』ような動植物がわんさか居ます。それらの対処法を、予め心得ている必要があります」
「……初見殺し、というものね。分かったわ。実技は?」
「ドラゴンの討伐です」
「!」
ドラゴン。
地上最強の魔法生物。人類より強い賢者。
「エルックリン山脈は、『大氷壁』のすぐ南にあります。ニンゲン界ではありますが、指定危険区域。禁止区域となっています。何故なら、魔界からドラゴンが『遊びに』やってくるからです」
「…………他のA級は、皆それをクリアしたの?」
「はい」
人より強い、ではない。人類より強いのだ。今、ニンゲン界の地上をニンゲンが支配できているのは、ドラゴンと生息域が被っていないからというだけの理由だ。
ヒトに、ドラゴンは倒せない。強くて速くて硬いのだ。規格外の魔法を使う上、罠をも回避する。倒し方が無い。どうしようもない。
それがドラゴン。シーサーペントやデザードドラゴンのような、低俗のドラゴンではない。真のドラゴンは、最強なのだ。
「定期的に、『A級討伐依頼』としてエルックリン統括支部で依頼書が出されます。周期的に、来年の春頃。大氷壁周辺の気温が上がってきた頃に現れると予想されています。前回は3年前」
「……約半年後ね」
「A級依頼……」
魔界のドラゴンが、環境の安定したニンゲン界へ遊びに来る。なるほど。
「被害は?」
「記録を取るようになった500年前から、平均で毎回100人が喰い殺されています。前回は194人。A級パーティ『ツヴァイハンター』が討伐しました。死者の内訳は、民間人35人。B級ハンター75人。A級ハンターふたり。ギルド職員3人。国際国境騎士団員が54人。残りはC級ハンターです」
「………………!」
194人。死んでいる。A級ハンターも騎士団も死んでいる。民間にも被害が。
「実技試験の内容はその時々で異なりますが、今回の『ニンフ』には、このドラゴン討伐が課される可能性が高いです。今申請すると、冬が明ける前にエルックリン支部へ到着するよう通達されるでしょう」
「…………分かったわ」
とんでもない相手だ。けれど。
ここで引き下がる訳にはいかない。




