第193話 熱く語るエルフの冒険譚
「ルルちゃんね。大歓迎よ!」
「ルルねえちゃん!」
トヒアとキノが。
再度、両手を広げて。
ルルゥを全力で歓迎する姿勢を見せた。昔のジンと、このキノの人懐こい性格は。トヒア譲りなのだろう。
私達の後、ジンの入浴を食事の用意を手伝いながら待って。
全員で夕食。
「いやあ、この家もエルフ率上がってきたね。というか女子率も高い。男はジンだけだね。ハーレムだ」
「……ノーコメントで」
「はーれむって?」
「男ひとりに女が沢山ってこと」
「はーれむ!」
大家族が使うような大きなテーブルだ。これも新調したらしい。
並べられているのは、海で獲れた魚料理。森で採れた山菜のサラダ。交易船から買った獣肉の料理に、島のエルフ特製の果実酒。
「そういえば、ルルゥと並んで座って食事をするのも初めてね」
「……恐れ多く」
「駄目よやめて? あなたはもう、城仕えじゃないんだから。エデンの作法に従わなきゃ。私達が帰る度に、毎回私を抱き締めるのよ。良いわね?」
「………………。かしこまりました。姫様」
ルルゥは控えめで、フォークをあまり動かしていない。まあ、これから慣れていってくれれば良い。この家の敷居を跨いだ時点で。トヒアに歓迎された時点で、私達は皆家族のようなものだから。
……と、私は勝手に考えているから。
「しかし粋狂だね。わたしは好きだけど。旅に付いて行く訳じゃないんでしょ?」
トヒアからルルゥへ質問が飛んできた。
「はい。オルスで生まれ育った私では冒険の手助けはできず、足手まといになります。私は、それでも姫様の…………」
「ありがとう。あなたが待っていてくれると思ったら、次の冒険も頑張れそう」
「…………!」
これは事実だ。私はルルゥのことが好きなのだから。そして。
「ふぅん。良い雰囲気だね。ルルちゃんの気持ち分かるよ。わたしもそうだったもん」
「トヒア様」
「様は要らないよぅ」
そう。トヒアは同じく、ここで毎回、ヒューイ達の帰りを待っていたからだ。
ふたりは仲良くなれると思うのだ。さらに。
私も、これでヒューイの気持ちに少し近付いた気がして。
嬉しく思っている。
まあ、ルルゥが私の子を産むことはありえないのだけど。
「…………エルフィナ様からの、依頼ですか」
「ええ。ちょっと予定は前倒しで。ニンゲン界を踏破する前に、魔界へ行くわよ。まずは母からの連絡を待つ間の数年、ジンと一緒に修行。それから魔界入りの資格に挑戦して、晴れて魔界へ。目指すはミーグ大陸の大運河を越えた先、レナリア大陸。その友好国、プレギエーラ。ニンゲン界やオルスじゃなく、エーデルワイスとの友好国ね」
「ドラゴニュートの国ですか。……図らずも、ユラスとの約束を果たせそうですね」
「そうなのよ。もしかしてユラスは母のことも知っていて、こうなることが分かっていたのかもしれないけれど」
「ん? なに? ユラスって?」
ジンが訊ねる。そう言えば説明はしていなかったか。
「ウラクトで会ったドラゴニュートよ。彼の依頼を受けたし、彼にお世話にもなって。私達がレナリア大陸へ行く際は彼を訪ねて案内してもらうと約束をしていたの」
「ドラゴニュートに会ったことあるんだ! すげえ!」
「ふふ。凄かったわよ。透明になれる特性に、雷撃の魔術。魔界の最強種族。今でも目に焼き付いているもの。彼がデザードドラゴンを狩る所」
そう。
こういう話もしたかったのだ。私達の冒険を、語ること。ジンに。トヒアに。キノに。ルルゥに。
冒険譚を。




