第19話 楽園で唯一自由の無い姫
女性尊重主義者。
女性には、権利が無かった。それを、勝ち取った歴史がある。男性社会に、女性というものを認めさせた革命が。
ミニスカート、というものを見せてもらった。ルフの私物だ。いくつもの縦線に沿ってジグザグに折られたデザインで、プリーツという種類らしい。
咄嗟に可愛いと思った私は、フェミニストに向いているだろうか。
「ヒトの社会は変化していきます。ニンゲンが、科学を発達させて、流通を加速させて、安全圏を拡げて。昔ながらの原始的な暮らしは、駆逐されていきました」
「ええ」
真夏。
焦げてしまいそうな陽射しを窓から眺める日々。水と風の魔法が一番使われる季節。風通しの良さそうなミニスカートを穿きたいのだけど。それを伝えると今朝、ルルゥに強く止められた。はしたなく、下品だという。姫として、相応しくないのだという。
この森に。
女性尊重主義者が集まる、女の園で。
私に服装の自由は、無いのだ。
「ヒト種の安全圏が世界中に拡がったことで、自然界での生存競争から事実上離脱しました。ここが、分岐点です。人口爆発と呼ばれる現象が起きました。大体、1000年で1億人程度の増加でしたが、それまで世界で5億人程度だった人口は、この200〜300年で急激に、10倍にまで膨れ上がりました」
「ええ」
11歳の夏。私はどんどん、母に似てきているらしい。メイド達が噂をしていた。
返事が変わった。今までルフ含めメイドからの言葉は『うん』と返していたけれど。それでは少し幼いと自省した。母のように、『ええ』と返すようになった。
疑っている癖に、母を追っているみたいで複雑だ。これが反抗期というものなのかもしれない。
そう言えば、人口程ではないけれど、私の胸も膨らみ始めている気がする。メスの証だ。私の身体は、雛を母乳で育てる為の準備に入ったらしい。それは、私がメスとしてオスと交尾をする準備とも言える。
「今はもう、この国オルスでは人口増加は収まっています。まだ諸外国ではありますが、一旦、オルスの話に限定します。何故なら恐らくエルル様が知りたいのは、巨大森の成り立ちでしょうから」
「……ええ。突き詰めると、そうね。ヒューイの手を拒んだんだもの。まずは自分の生まれ育った『ここ』を、知らなければならないのよ」
ルフはまた、私ににこりと笑いかけてリラックスした。ルフや他の皆は私を賢いと褒める。私にはそれが、姫へのお世辞だと思っている。それか、私が表向きはこの森の主張を否定していないからかもしれない。
しかし、そうではないとしたら?
また疑っている。こうなると、自分でも制御できない。ルフを疑いたくは無い。けれどそれは単なる感情で。この護衛は間違いなく私を冒険者ギルドに連れて行って何かに利用しようとしている。その上で。それらをお互いに察している上で、この授業が成り立っている。
事実や歴史は学ぶ。けれど主義には、注意深くならなければならない。尊敬する教師だけれど、ルフの主義に私が染まる訳にもいかない。
「全体主義から、個人主義へ。国の中でも、変遷の流れがありました。それは、大きな戦争を起点に、時代が変わっていきます」
「戦争」
「オルスは、100年前の大戦で敗北しました。そこから、舶来の文化が津波のように押し寄せ、『舶来化』が起きました。モノやカネだけではなく、ヒトも。……変わっていきます」
この森に、フェミニストの楽園ができて、今年で12年。私が生まれる前の。
男性社会で、女性差別のあった戦前から。戦争に敗けて、戦後。
そこから、今日までの、話。
私がミニスカートを穿いてはいけない理由。