第188話 真剣に嬉しい一段落
それから。
「行ってらっしゃい。プレギエーラからの返信が届いたら、冒険者ギルド経由で報せるわ」
私の生理が来て。
「はい。行ってきます」
「……たまには。30年か40年に一度くらいは、帰ってきても良いのよ」
「…………はい。お母様」
2週間ほど、巨大森に滞在した。
◆◆◆
「…………ルルゥ?」
出発の朝。今年は残暑が厳しい。城からいくつかの服や日用品も調達して。巨大森から少し離れたオルス大陸西海岸の、母の利用している河港に。
ルルゥが、お着せのまま。しかし大きな革のバッグを提げて。
私達を待ち構えていた。
「私も、連れて行って……ください。姫様」
その、金色の瞳で。真剣に私を捉えていた。意志は、硬い。
「女王様には、お許しを戴いています。私は元々、姫様付きの侍女でした。それは、姫様の居場所が変わっても。……どうかまた、お側に居させてください」
「……冒険には、連れて行けないわよ?」
「構いません。エデン島の、姫様の『帰る場所』に。居させてください」
「………………」
ジンと。リーリンと目を合わせる。ふたりは微笑んで頷いていた。
「……ルルゥ」
「はい」
私としては。
こんなに嬉しいことは無い。
「分かったわ。一緒にエデンに行きましょう。あなたに紹介したい人も居るし。また、よろしくね?」
「……! はいっ!」
ルルゥの表情が晴れるように輝いた。綺麗だ。正にこれを望んでいた、という表情。
私も嬉しくなってくる。
「じゃあ、こっちっす。女王様の船があるっすよ。エデンまで一直線らしいっす」
その船は、客船でも商船でもなく、大きくはなかった。ただ移動するためだけに造られた、コンパクトな船。
旗も掲げられていない。巨大森はオルスの中の自治区とはいえ、魔界との連絡船である為に非公式の船なのだ。
「こちらへどうぞ。姫様」
「ええ。…………あなた、ここに勤めるようになったのね」
「!」
案内をしてくれたエルフは、昔一緒に魔法を学んだ、言わば姉弟子だった。親教師から吹き込まれて、会ったことも無い男性を憎んでいた、あの子達のひとりだ。
「……私のこと」
「そりゃ、覚えているわよ。あなたも、強くなったわね。私には魔力が視えるから、よく分かるわ」
「………………ありがとうございます」
彼女は照れながら、船室を案内してくれた。私達の他に、6人のエルフが乗船している。
当然ながら全て女性だ。
「狭い船で申し訳ございませんが、ご用意できるお部屋はひとつです。エデンまでは、10日間ほど掛かります。それまで、ごゆるりと。姫様御一行様」
「ええありがとう」
私達が乗船してから、すぐに出港した。帆船だけど、魔界の技術が使われているらしく、あの亜人狩りの船のような魔力を推進力を変換するのに似た機械が付いているらしい。
「……ふぅ。これで一段落ね。後はルフね」
「ルフ姉ちゃん大丈夫かな……」
「新生ヒューザーズ、結構頑張ってるんで大丈夫だと思うっすよ」
荷物を置いて、それぞれベッドや椅子に座る。ベッドはふたつ並べてあった。けれど、ジンには小さいように思う。この部屋を使う想定が、メスのエルフだからだろう。
「あ。一応、新聞を持ってきました。読みますか?」
「オルスの?」
「はい。私もまだ内容を確認していませんが」
ルルゥから、手渡された。新聞。ニンゲンのニュース。興味ある。
ひとつだけある円形のテーブルに置いて開いた。ジンやリーリンも覗き込んでくる。
そこには。
国内の、私に対する賛否の声と。
キャスタリアでのニュースが書かれていた。




