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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第8章:約束を果たす儀式
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第183話 避けられない犯罪者の娘

「ねえ、銃って、どれくらい危険なの?」

「ん。そうだね……」


 銃で武装したニンゲンの兵隊。その包囲を抜けなければならない。


「これが俺の持ってる銃と銃弾」

「…………」


 ジンが私に手渡したのは、鉄の塊と鉛の玉。


「重い……」

「うん。でもこれは、拳銃って言って。携帯用に小さいやつなんだ。精度はあまり良くないから近距離で発砲する用。当たりどころが悪ければ死ぬよ。この鉛玉が身体にめり込んで肉を抉るから」

「………………」


 あのエルドレッドを一撃で戦闘不能にしたのだ。私の魔法では不可能な成果。侮れない。


「自警軍が持ってるのは小銃だね。もっと大きくて、弾は速く飛んで、何発も連続で撃てる。狙われたらまず『避けられない』んだ。避けさせないように、連続で射撃してるから」

「…………なるほど。戦闘になった場合、あなたはどうにかできる?」

「無理だよ。俺の魔導はあくまで魔素魔法に干渉する技術だから。魔力の通っていない銃弾には手出しできない。つまり戦闘開始はイコール死ぬってこと」


 銃。

 ニンゲンの牙。

 いつかは相対しなくてはならない時がくると思う。けど、今じゃない。


「……分かったわ。あの中に亜人が居ないなら、取れる手はひとつね」

「え?」


 相手はニンゲンだけの軍隊。銃がどれだけ危険でも、私には回答があった。


「リーリン。ジン。私の近くに」

「はいっす」

「分かった」


 気泡の魔法。

 と、土の魔法を組み合わせる。私達の立つ部分の地面をくり抜いて、空気の球体の底に敷く。


 そのまま球体は浮かび上がる。


「ステルスエリア」


 ユラスから学んだ視覚ステルス。それを球体に浸透させる。

 もう、亜人であっても見付けられない。そのままふわふわと、巨大森を目指す。

 巨大樹の城を。


「すご……。飛んでるっす。飛行魔法じゃないのに」

「うおお……!」

「魔力侵蝕が進むから、普段は使えない移動方法だけれどね」


 実は、私には時間が無いのだ。そろそろ、魔力侵蝕が来る。魔法が使えるのは今の内。ここで行動不能になるのは危険すぎる。早く、城へ逃げ込むのだ。






◆◆◆






 巨大樹のお城には、広いバルコニーがある。母の寝室だ。オルス自警軍の包囲を易易と抜けて、そこへ着陸した。


「あっ。ここ、男子禁制だったよね。俺……」

「え。ジン、死刑っすか?」


 今の時間。母がどこで何をしているかは分からない。けれど、この場所には母と私しか入れなかった筈だ。


「待って。ジンは声を出さないで。リーリンは小声で。……エルフは他の種族より聴覚に優れているから」

「!」


 男声など。ここで発させる訳には行かない。明らかな異物。私は今、心臓の鼓動が大きくなっている。男性を。オスを。

 巨大森に連れて来ている。


 森の法を犯しているのだ。


「まずは母とコンタクトを取らないと始まらないわ。他の誰に会っても、誤解を招くから――」


 ガチャリ。


「!」


 先程ジンに見せてもらった時に聴いた、銃の音が。


 私達を囲んでいた。


「…………はっ!?」


 リーリンが叫ぶ。ここには誰も居なかった。それを確認して着陸したのだ。音も。魔力も。気配も。


 無かったのに。


「不思議そうな顔ですね。今あなたが使っていた気配消し(ステルス)の魔法と、無音の魔法との複合魔術ですよ」

「…………!」


 懐かしい。その声は。

 私に対して、敵意を示していた。


 私と同じ髪。同じ瞳。背は、もう追い付いている。


「お母様……」


 何人もの、銃を構えたニンゲンの女性の部隊。そして、母。

 その隣に、申し訳無さそうな表情のルルゥ。


「正式な審査と手続きを経ていない上空からの不法侵入。そして『男性誘致』。……外の世界で犯罪者となったあなたは、ここでも犯罪を行うのですね」

「……何故…………この森にニンゲンが」

「あなたが出て行ってからの9年間で、森の法も変わりました。女性であれば、種族を問わず受け入れます。さらに言えば、今は緊急事態ですから」

「…………ぅっ」

「エルルさん!?」


 私はここで。休憩を取るつもりだったのだ。取れると、思っていたのだ。だから、空を飛んでふたりを運ぶという、消耗の激しい魔法を使ったのだ。


 ふらり。

 魔力侵蝕が来る。頭の痛みに耐え切れず、私はその場にうずくまった。

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