第181話 無自覚な魔人の手先
女性だから味方かと思ったけど、やっぱり亜人は魔物ね。
亜人メスさんオス冒険者に媚び媚びじゃんダサ。
ほんと無理。ああいうのほんと消えてくれないかな。
そもそも姫って時点で特権階級だからね。護衛付きで安全に旅して冒険者だーって。カス過ぎ。何調子乗ってんのって感じ。
あー早くシャワー浴びたい。なんか臭いしここ。エルフの臭いする。生理的に無理。
耳長ヒトモドキの癖に何を女性側みたいなスタンスでホモソーシャル肯定してんだっつの。あーマジでウザい。
◆◆◆
「………………」
「エルルさん?」
多分。
彼女達は私がエルフであるから、聴覚に優れていることを知っているだろう。だから、これらは私に聞かせるつもりの中傷なのだ。
疲れた。
その場にしゃがみ込んでしまった。
「エル姉ちゃん? どうした」
「…………大丈夫よ。ちょっと、疲れただけ。ふぅ……」
長い息が出る。
初めて、まともに対面して会話をしたかもしれない。私を姫と崇めないフェミニストと。ニンゲンの女性の、フェミニストと。
「…………なんか言ってるんすね。今からでも」
「駄目、よ。リーリン。ごめんさいね。あなたを巻き込んでしまって」
「……もう良いっすよウチのことなんて」
背に手を置いてくれた。暖かい。
もし今、ルフが居たら。
泣き出して、縋りついてしまっていたかもしれない。
完全に、敵対した。彼女達は私を嫌いになった。
それがたまらなく辛い。怖い。悲しい。
「…………『あれ』がミサンドリスト。反出生デーモンの手先……」
「えっ。なんすかそれ?」
オルスは、冒険者もフェミニストが多いのだろうか。彼女達の考え方は少数派なのか、多数派なのか。
「…………ふぅ。いえ、大丈夫。行きましょう」
「…………」
そして。
私達は今から、そのフェミニストの総本山へ向かっているのだ。
何かの冗談であって欲しいけれど、そうもいかない。
「……いや待って。『耳長ヒトモドキ』って相当酷くないかしら。よくそんな言葉を思い付けるわね」
「エルルさん。もう無視するっす。ちょっと休憩しましょ。ね?」
なんだったのだ。これは。
私達は、結果的に彼女達をエルフの手から助けた……と、思うのだけど。
嫌な気持ちだ。
◆◆◆
それから。
追手を警戒しつつスピードを上げていく。ジンが本当に逞しくて、思ったよりも速度は出た。
1ヶ月後に、ここまでやってきた。
巨大森に程近い都市。
イール市が見えた。
「街へ入りたいけれど、やはり無理そうね」
「ルフ姉ちゃんの、母ちゃんだっけ」
「そう。ルーフェがここで亜人向けのカウンセラーをしているわ。もう一度会いたかったけれど、難しいわね」
街へは入らない。ニンゲンのニュースは早い。もう伝わっているだろう。早く巨大森へ行かなければ。あそこへ入れればもう、オルスのニンゲンは手出しできない筈。
「リーリン。どう?」
「……んー……。案の定、っすね」
偵察に行っていたリーリンが戻ってくる。彼女の遠視の魔法はまだ私には使えない。
「巨大森周辺は全部兵隊が囲んでるっす。人っ子ひとり通れないっすよ」
「魔法使いは?」
「見た感じ居ないっす。国際警察はやっぱりこの件に絡んでないっすね」
「……そう。エルドレッドも律儀ね」
「あと、全員『銃』で武装してるっす。下手な魔法より危険っすよ」
「…………分かったわ。少し、考えてみる」
「了解っす。ウチも休憩貰うっす」
見晴らしの良さそうな高台があった。そこへ登り、巨大森の方角を見る。
巨大樹の宮殿がある。あそこに母が居る。
「………………」
フェミニストの、巣窟に。




