第180話 役に立たない罵声
「多分こいつらは、『それ』は提案された筈っす。けれど断った。『役に立たないのに分け前を正規で寄越せ』と望んだからっす。それで当たり前に断られた女冒険者志望達が、よく女性だけのパーティを組むっす」
「当たり前でしょう!? 冒険に行くなら危険度は同じ! なら分け前は等分じゃない!」
「役に立たないのに? 分け前は『成果』であって、『危険度』なんかじゃないっす」
「そんなのやってみないと分からないじゃない!」
リーリンとレインの口論は続く。
「男側の気持ちを考えろっすよ。誰か怪我しても女じゃ重い男を満足に運べない。足も遅い。力も弱くて荷物を持てない。……で、あんたらフェミニストは娼婦を『馬鹿にして』るから抱かせもしない。……文句だけ言う役立たずのフェミニストを誰が連れて行くんすか? あんた達と同じように、男だって『男と組みたい』んすよ」
「それが! 差別だと言ってるんです!」
「なら、あんたらの言う通り女を連れていきましょう。今日みたいに犯罪者か魔物に襲われて全滅っすよ。そんなリスク、誰が好き好んで負うんすか?」
「…………だから……!」
レインの言葉が詰まった。反論できないのだろう。元よりできる反論など無いのだけど。リーリンかやれやれと溜め息を吐いた。
「だから、山菜摘みや小型の魔物退治しかやってないんすよね。自分達で証明してるじゃないっすか。禁止エリアじゃなくても大型の魔物が出るエリアはあるっすよ。そこへ行って狩りをしてない時点で、男に対して守ってもらう気満々なのが見え透いてる。あんたの論理は破綻してるっすよ。『女でも冒険できる』と行動で示していない時点で、何を言っても無駄。誰も耳を傾けないっす。あんたらは口だけのフェミニストってことっすよ」
「………………っ!!」
歯を、ギリギリと食い縛っている。もはや、ただの感情だ。自分達が正しいとは思っていない。分かっているのだ。けれど、認めたくない。生意気なリーリンが憎い。……そんな表情だ。
「……じゃあ、エルル様は!?」
その、怨嗟の眼差しは私に向いた。
私はルフとふたりで冒険できている。それが『女でも冒険者をできる』証明だと言いたいのだろう。
「私がいくら評価されても、それは女性やあなた達が評価されたことにはならないわよ。だって、じゃあ例えば私が活躍したことでもし女性冒険者でも使えると判断されて、あなた達が男性パーティに交じれるようになっても。結局あなた達は何も変わっていないのだから、全滅するじゃない」
「…………ぅ……っ!!」
レインは涙目になった。もう、これ以上は可哀想だ。
「それに、私達は別に女性だけのパーティじゃないのよ」
「!?」
丁度、見回りを終えたジンが戻ってきた。剣呑な雰囲気に警戒しつつ、私の隣に来た。
「私達ニンフは、ジンを入れて完成なの。ルフと合流して、魔界入りを目指すのよ。だからそういう意味でも、お断りするわ。もう既に私はパーティを作っているから」
「…………オトコ!」
「えっ?」
レインはジンを指差した。
「結局、オトコを頼るんですか!? 信じてたのに!」
「……? 何を言っているのか分からないわ。私はあなたを信じさせた覚えは無いわよ。最初から、ジンと一緒になる予定だったし」
「裏切りよ! 女性全てに対する!」
「どうして?」
「なん……っ!!」
ああそうだった。フェミニストは男性を嫌っていたのだった。
この男性に助けられたことはもう忘れたらしい。
「ん、なんか喧嘩?」
「そうね。多分、仲直りはできなさそう。もう行きましょう。とにかく無駄だわ」
踵を返した。リーリンとジンの肩を順番に軽く叩いて合図する。もうここには用は無い。彼女達には。
命は助けた。後はもう、自己責任だ。
「じゃあね、レイン。時間も無いし、私達もう行くわ。こんな奥地まで来たら危険よ。早くギルドへ帰りなさい」
それが冒険者なのだから。あなた達も、冒険者を名乗るのなら。
彼女達はずっとぎゃあぎゃあと私達の背中に罵倒を浴びせてきたけれど。それで気が晴れるならすれば良い。
もう、会うことは無いだろう。
◆◆◆
「本当に殺さなくて良いっすか? 逆恨みで情報バラされるっすよ。あとあることないこと言い触らされるっす」
「ええ。もう良いわ。バレることを前提に進みましょう。速度を上げるわよ」
「……了解っす。エルルさんがそう言うなら」
リーリンは少し不満そうだったけれど、私はやっぱり、最終手段以外で人を殺したくは無い。




