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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第8章:約束を果たす儀式
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第179話 絶望的に不毛な会話

 彼女達は、私を褒めてくれている。讃えてくれている。尊敬してくれている。

 なのに、どうして。

 こんなにも、気持ちが悪いのだろう。


「エルフの姫が助けてくれた……!」

「あれ、でもオルシアで裁判だった筈じゃ?」

「違うわよ。逃げたのよ。だってエルフなのよ?」


 リーリンは木弓を組み立て始めた。後ろの子達は気付いていない。


「ま。待ってください。……どうしてですか? エルル様っ」

「…………弓を降ろしてリーリン」

「無理っすね。ウチの生存(いのち)に関わることなんで。元々はウチのミスっす。ウチが始末を付けるっすよ」

「………………じゃあまだ、少しだけ待って」


 私達の居場所は、オルス側に知られてはならない。折角、追手を撒けているのだ。


「……ゴブリン……」

「灰色の肌よ……」

「あれがゴブリン……」

「ゴブリンって魔物じゃ……」

「ちょっ。聞こえるわよ!」


 後ろの子達がようやく気付いたようだ。小声だけど、私の耳には全て入ってくる。

 リーリンの、拳を強く握る音も。


「……レイン」

「はい」


 私はレインと目を合せた。期待の眼差し。正直、痛いけれど。

 言わなくてはならない。


「まず、私達はオルス側に居場所を知られてはならないの。絶対よ」

「分かっています。誰も、誰にも言いません。言い聞かせます」

「…………ありがとう。それと、パーティへのお誘いのことだけど。お断りするわ」

「え……」


 その眼差しが、一瞬にして絶望に変わった。


「理由はね。私が冒険者をしている目的と。あなた達の目的が違うからよ」

「そんな……!」


 言わなくてはならない。誤解を与えてはならない。思わせ振りなことを言ってはいけない。

 断る時は。


「あなた達は、『社会と戦う』と言ったわね。パーティ名からしてもきっと、ニンゲン社会での女性の地位向上が目的なのでしょう?」

「エルル様は違うのですか!?」

「…………」


 その質問は。

 最初から決め付けている者の言い方だ。

 私はメディアに何ひとつ意見を発信した覚えは無いのに。勝手に、私をフェミニストであるかのように吹聴した。

 フェミニストの手口。


「私の目的は、世界中を見て回ることよ。知らないことを知る旅をしているの。冒険をしたいのよ。戦いじゃないわ。戦闘力は、必要だから身に付けただけ。戦いを目的にはしていないの」

「…………!?」


 まるで、初めて見る生き物を見るような目に変わる。私の言っていることが理解できないのだろう。


「……私が女でも男でも、冒険者になったと思うわ。困難の数は問題じゃないの。だから、私とあなた達では、目的も動機も何もかも違うのよ。だから、あなた達のパーティには入れないわ」

「女性は虐げられています! 今も! あのエルフ達に性的暴行を受けました! 力が無いからと、危険なエリアはギルドから禁止されています! 不公平! 性差別があるのですよ!? まずはこれを正さないと!」


 早口になった。私を捲し立てる。

 口論になった時点で会話は終わりだ。この流れで私がこの子達のパーティに入ることはさらに絶望的になったというのに。

 まだ続けるのか。


「魔界のこと? 行けば良いじゃない。行きたいなら。禁止されて困るということは、ギルドの世話にならないといけないからでしょう? 私はいずれ行くわ。たとえギルドと縁が切れても。関係ないわよ。だって冒険者だもの」

「…………!?」


 まだ、続けるのか。この不毛な会話を。


「魔界どころではないですよ!? ニンゲン界でも、女性の禁止エリアはいくつもあります! 私達は、男のパーティにも入れてもらえなかったんですよ!」

「そりゃ、危険だもの。だから女性達でパーティを組んだのでしょう?」

「差別されたからですよ!」

「違うわ。あなた達は女性だから断られたのではない。力が無いからよ」

「だから……!?」


 私が、全て説明して。言ってしまって良いのだろうか。


「エルルさん。この女、嘘吐いてるっす」

「リーリン?」


 横から、リーリンが口を出した。


「冒険者は、冒険の役に立たない女冒険者をパーティに入れることはあるっす。……『冒険娼婦』っすよ。旅先で、メンバーの相手をするっす。役割はそれ。後は誰でもできる雑用とかっすね。分前は、半分から1/3程度。ウチも若い時は経験積むためにやってました」

「…………冒険娼婦」


 そういうのもあるのか。ああ。レンの船の、ルフェルのようなものか。

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