第178話 背筋が凍る憧憬の眼差し
「ありがとうございます! ありがとうございました……!」
「ううう……! 死ぬかと思ったぁ……!」
首と両手首を鎖に繋がれた、半裸の女性達。着ていたであろう服はびりびりに破かれ、乳房が露わになっている。全身傷だらけ、ヒルだらけで、痛々しい。顔や胸に白濁色の液体が付いている子も居た。あのエルフ達の精液だろう。
それが、全部で5人。
「ジンは周囲の安全確認を。リーリンは死体と彼らの荷物の処理を。お願いできる?」
「わ、分かった」
「りょーかいっす」
私は風と土の魔法で簡易的にベッドを作り、彼女達を横たわらせる。まずは消毒。そして治癒。彼女達に群がるヒルの除去。
「あつっ!?」
「我慢して。服も脱がすわよ。全身を洗うわ。何より、それから。……骨折などは、無いわね」
大怪我や病気は、私には治せない。けれどいずれは学びたいと思っている。旅に怪我は付き物だから。
ともかく、彼女達を洗う。今が夏で良かった。股間を確認したけれど、まだ誰も犯されてはいないようだった。良かった。
◆◆◆
「私はレインと言います。……クーラン支部の冒険者パーティ、『女性活躍採集団』のリーダーです」
「冒険者。あなた達が?」
焚火を熾し、温風で彼女達を包む。盗賊達の荷物から着れそうな服をリーリンがいくつか持ってきてくれたので、彼女達に着てもらう。男物でサイズが合っていないけれど、仕方無い。5人の女性達は身を寄せ合って、火に当たっている。
リーダーであるというレインは黒髪ボブカット。鍛えてはいるようで、身体は引き締まっている。20代前半くらいだ。
「……はい。と言っても、この樹海近辺で山菜や小型の魔物を狩って細々とやってるようなC級パーティです。盗賊がこの辺りに出没するようになった噂は聞いてましたが、危機感が足りず……。つい一昨日です。全員捕まって……。誰も死ななかったのは、幸いでした」
5人パーティとはいえ、ニンゲンで、しかもメス。エルフのオスなら簡単に襲えるだろう。殺すだけならひとりで良い。
ニンゲンのメスだけで冒険者パーティなど、危険過ぎる。
……人のこと、私が言えたものではないけれど。
「クーラン?」
「この地点だと、私達の速度で3日の距離ですね」
「……そう」
「あの。エルル……姫様、ですよね」
「!」
オルスで活動している冒険者。当然、私のことも耳にしている筈。
私の名をレインが呼んだ時。後ろの4人も私を見た。
きゃあきゃあと騒いでいる。
「…………そう、だけど」
「殺すっすか?」
「えっ!?」
リーリンが、ひょいとやってきた。確かに、彼女達がクーランへ戻って私達のことを話せば、どれだけ拡散されるか分からない。オルス国軍が押し寄せてくるのも時間の問題となる。
彼女は冷徹に言い放った。
「……ちょ、本気ですか……!?」
「待って皆。待ってリーリン。話が急すぎるわ」
「だって、目を見たら分かるっすよ。こいつら『フェミニスト』っす。エルルさんのことを、世に伝えたくてたまらないんじゃないっすか?」
「え……」
フェミニスト。
冒険者が?
そう思い、見ると。
レイン達は、視線を逸らした。
「…………あの、エルル姫様」
「なに?」
「私達、姫様のニュースや、エデンでの噂を知って、嬉しかったんです」
「……何が?」
注意深く、聞く。警戒しながら。
「……強姦魔に抗って、鉄槌を下したこと。女性だけのパーティを組んで、旅立ったこと。レドアン大陸を回って、無事に帰ってきたこと。……凄い! ……って。『女性でも冒険できるんだ』って、私達へのメッセージだと思って」
「…………『私達』?」
「はい。女性全ての!」
「…………」
5人共が。
私を、『きらきらした目』で見た。
「姫様は『女性』の憧れで! 誇りです!」
「そうだ! 姫様もウチに入りませんか? 女性は多い方が楽しいし!」
「そうよ! 一緒に社会と戦いませんか? 勿論ルフ姫様も一緒に!」
レインの背後から、彼女達がそう言ってくる。
「………………」
ぞわりと。
背中が、凍り付いた感覚があった。




