第176話 性的に魅力的なオスとメス
家族とは。
その答えを、私は知らない。
ルフは、エデンで産まれた時から草原のエルフの集落で暮らし、妹のルフェルと共に育ってきた。ゲンの事件が起きるまでは、両親共に健在で、森へ行けば大長老も居て。
恐らくは安全に、エルフとして普通に育ったのだという。そう聞いたことがある。
私には母が居た。父は居なかった。そして、その母も。普通では無かった。フェミニストの女王だ。私は普通ではなく、姫として育った。
「ふーん。照れてんすよそれは」
「……そうなのかしら」
オルス大陸――どこかの森。方角は北西へ向けて。私達は旅をしている。
私の感極まった求愛に対して、結局はっきりとは応えてくれなかったジンのことを、リーリンに相談すると。そんな答えが返ってきた。
「ウチも、もう1年くらいジンと組んでるっすけど、いっつも話題はエルルさんとルフさんのことばっかっすよマジで。正直キモイっすもん」
「…………そうなの」
現在、深夜。ジンはニンゲンだから、睡眠を取らなければならない。私とリーリンは起きていられるため、よくこうして話をしている。木を伐って作った即席のベンチにふたり、腰掛けて。
「そこに、このエルルさんっすよ」
「え?」
「4年経つんすよね。ジンの話と違うっすもん」
「何が?」
「カラダ。チチとケツっすよ」
「ええっ」
リーリンは口を尖らせて、隣に座っている私の胸に人差し指を突っつけて埋めてきた。
「まさか、数年振りに会う愛しの『姉ちゃん』がこんなドスケベボディになってるとは。こりゃジンはたまらんっすよ」
「…………ドス……」
ぷにぷにと弄ばれる。事実だけ言うと確かに、小柄な種族のゴブリンである彼女の胸を指で突いてもこうはならない。
「……それは、私がきちんとジンを魅了できてるってことよね?」
「なんすかその返答。ウチも相当『空気読めない』って言われるっすけど、エルルさんも大概っすよね」
「そうかしら? 私はジンと『つがい』になりたいのよ。私の身体でジンを捕まえられるのなら問題無いわ」
「いやまあ……それに関しては効果抜群っすけど。そうなると不憫なのは、ジンっすねえ」
「そうなの?」
ふぅー、と。リーリンが長めの溜め息を吐いた。
「今回の件で、ウチも調べたんすよ。何があって、エルルさんが国際指名手配されたか。このオルスで、何があったか」
「…………私がレイプされたことね」
「……そうっすけど、自分で言っちゃうんすね。勿論、ジンから聞いた訳じゃないっすよ」
その件は、ルフとも話した。けれど、それはジンが私に遠慮して、襲ってこないというだけで。結婚とは段階が違うと思うのだけど。
「だから、アプローチはエルルさんからドンドンやるべきっすよ。だって、『男性への嫌悪感』、ジンには感じないんすよね」
「…………そうね。ジンでもなければ、寄り掛かったりできないわ。ジンだけよ」
「それをもっと伝えるんすよ。ジンはまだ恋愛したこと無いんすからね。分からないんすよ。どうしたら良いか」
「…………いきなり求愛は、まずかったかしら」
「いや、だからドンドンすべきっすね。ニンゲン社会の恋愛だどうの駆け引きがどうのとか、無視っすよ無視無視。オスを手に入れたいならアタックあるのみっす。日和ってる間に別のメスに奪われたら人生終わりっすよ? ジンっすよ? A級っすよ? 引く手数多っすよ。あのオス。しかもまだ17っすから、これからまだまだ強くなるっすよ。そんなん、どのメスも放っとかないっすよ」
「………………そうよね」
4年振りに再会したジンは、私から見てもとても魅力的だった。『強いオス』。その、本能に訴えるような魅力は自分でも驚いたくらいだ。あの、エルドレッドに勝ったのだ。
思い出すと今でも、高揚してくる。
「ルフさんが居ない今、エルルさんのチャンスっすよ」
「……? ルフもジンが好きなのよ。そうか、じゃあジンにアタックするにしても、ルフとの合流を待った方が良いわよね。他のメスに取られない範囲で」
「はい?」
「え?」
そうだ。ジンと合流した今。
早くルフとも、一緒にならないと。




