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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
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第174話 逞しく強引になった男

 見えなかった。暗いからじゃない。


 何か小さな物体が、エルドレッドの腰の辺りを貫いたのだ。


「…………っ!?」


 エルドレッド自身、まだ何が起きたか分かっていない。けれど、血は噴き出している。立てない。瓦礫は、そのままジンに当たることなく糸が切れたように落下した。


 ジンの方を見ると。


 左手に、剣。

 右手に、見覚えのない黒い道具を握っていた。


「…………ぐふっ。……『銃』か」

「ああ。俺は弱い弱いニンゲンだから。何でも使うよ。別に、俺は剣士じゃない。これは試合じゃない。……腰骨が砕けてる筈だ。もう立てないだろ」


 銃。


 ニンゲンが開発した、魔法に匹敵する射程武器だ。確か火薬の爆発を使って鉛の玉を射出する。あの音は、発砲音だったのだ。


「ちっ……。油断してたな。俺の、負けだ……」

「俺の勝ちだ。エル姉ちゃんは、貰っていく」

「へっ…………。別に俺のモンでもねえよ。最初から」


 負けを認めた。あのエルドレッドが。


 負けた。ニンゲンに。


 ジンが。


 ジンが勝った。


 私じゃ戦いにすらならなかったエルドレッドを。正面からの決闘で下した。


「…………!」


 私も崩れ落ちていた。顔を両手で覆っていた。涙が、止めどなく溢れていた。


「……ああ、A級、って。名乗ってたな。エルルから聞いたぜ。魔界入りの基準だろ」

「…………うん」

「……俺は、どうだった。魔界でやっていけるか?」

「…………分からない。俺はまだ魔界には行ったことが無いんだ。姉ちゃん達と行くつもりだから。それを目指して、修行してきたから」

「………………そうかい」


 それから。

 ジンがここまでやってきて。私達ふたりを背負って、ここから離脱した。






◇◇◇






「ぅ……。ふぅっ」

「な。泣かないでくれよエル姉ちゃん。俺まで泣きそうになる」

「だって……。また、会えたのよ。一度は諦めたのに。あなたが。……会いに来て、助けてくれた……」


 ジンの背中は広かった。逞しい。安心して身を委ねられる。


「…………あの、姉ちゃん」

「……え?」

「…………いや……。何でもない」

「……?」


 こんなに、好きだっただろうか。こんなに、会いたかったのだろうか。

 泣き過ぎだ。私。


「……オッパイ当たってるってことっすよ。ジンの走り方が変になったっす」

「えっ?」

「ちょ…………っ」


 確かに、凄いスピードだ。なのに音はしていない。忍者の歩法だろうか。私達が並んで走るより、彼に担いで貰った方が速い。

 これが、鍛えた『男性』の走力。


「で。どこに向かってるっすか? ウチらが来た港とは逆っすけど」

「港はもう改められてるだろ。依頼主の所だよ。あそこはオルス政府の手が入らないから」

「!」

「えっ」


 ジンはそう言った。今から。オルシアから。

 オルス大陸北西部の、巨大森へ向かうと。


「エル姉ちゃんの故郷だろ? 一度行ってみたかったんだ。女王様にも挨拶したいし」

「!」


 ジンを。


 母に?


 紹介する?


 何と紹介する?


「ちょ……ジン? 本気?」

「ああ。あ、そうだ。さっきのエルドレッドさん? から鍵受け取ったよ。魔封具、外そう。ほら」

「ちょ…………」


 何だか。

 4年会わない内に、逞しくなって。

 少し、強引になったんじゃないかしら。

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