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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
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第173話 夜空に轟く信じがたい魔導

 私は今。信じがたい光景を目の当たりにしている。


「……どうして……?」


 思わず口からこぼれた。


 視線の先。崩れたホテルの瓦礫の上で、ふたりのオスが戦っている。


 エルドレッドの手からは暴風や火炎が噴き出している。どれもニンゲンには致命的だ。前提として、ニンゲンは魔法が使えない。魔法は簡単に生物を殺せる。ニンゲンは、亜人には敵わない。それが自然界の原則だ。

 その筈だ。


 ジンは。

 その剣を使って、それら必殺の魔法を凌いでいる。

 私には魔力が視える。ジンの命へ一直線に飛んでいくそれら魔法が、彼によって『曲げられて』いくのだ。回避不可能な火の玉も、面制圧してくる風の壁も。全てその剣で切り裂き、押し曲げ、捻り。

 目にも止まらぬスピードで捌いている。


「どうやってあんなこと……」

「知りたいっすか?」

「!」


 隣のリーリンが、得意気に説明してくれた。


「魔法ってのは、魔力を主体とした現象っす。魔力とは、魔素を媒介に生み出されるエネルギーっす。で、この世界には魔素が常に空気中に満ちてるっす」


 それは分かる。常識だ。


「あの剣もそうっすけど、大気中の魔素の動きを『誘導』する道具と、技術が、あるっす」

「…………誘導」


 復唱する。これはきっと、私にとっても重大な情報なのだ。魔法を防ぎ切るニンゲンの存在。エルドレッドも、初めて見るらしく、ジンがどこまでできるのかを測っているように思う。


「体内から放たれた魔法は、空気中を移動するっす。つまり、魔素の影響を受ける。流れる水が魔法だとして、魔素は地面なんすよ。つまり、川。あの技術は、運河の建設工事なんす。魔法の行く先を、変えるんす」


 自分に向かって放たれた、高速の魔法を。

 捻じ曲げて躱す技術。


「魔法でも魔術でもない。魔を導く――『魔導』……って、呼んでるっす。『魔界のニンゲンの技術』っすよ」

「!」


 魔導。

 そんな、ものがあるのか。


「待って。魔界に、ニンゲンが?」

「居るっすよ。元々は冒険者で、魔界入りしてそのまま定住した人達の子孫って感じっすね。だからギルドとは定期的に交流があって、ジンもそれで修行したっす」

「…………」


 視線をホテルに戻す。今は、ジンの勝利を願うしかない。私がオルス政府に騙されていて、一生ここで拘束されるのだとしたら。今、逃げるしかない。






◇◇◇






「……驚いたな。ここまで魔法撃って死んでねえヤツは初めてだ。しかもそれがエルフじゃなく、ニンゲンってんだからよ」


 エルドレッドは感嘆していた。あれだけ魔法を使ってなお、汗のひとつもかいていない。

 対してジンは。


「はぁ、はぁ。ははっ。ぶっつけ本番だけど、案外なんとかなってるな。いやあ、毎秒死が過ぎる」


 息が上がっている。顔から肩から、全身に擦り傷。魔法は曲げられても、粉塵や瓦礫は防げない。


「……楽しんでやがる。一端の冒険者気取りか」

「俺はもう冒険者だよ。さあ、そろそろ決着だ」

「俺はまだ無傷だぜ!?」

「!」


 ジンは低く、構えた。どうあれ、魔法使いの強みはその射程だ。安全地帯から高速の大規模即死魔法を連続で射出できる上に魔力(スタミナ)切れにも期待できないエルドレッドに勝つには、近付くしかない。

 駆け出す。低く低く。石と氷の雨を避けながら。


 ガキン。ふたりの剣がぶつかり合う。すると一瞬、エルドレッドの魔法は途切れる。


「ぬっ!」


 けれど、体格でもジンは負けているのだ。剣を含めた体術でも、敵わない可能性はある。


「!」


 剣戟が続く。火花が散っている。ジンの猛攻に対処するエルドレッドは、次の魔法を中々発動できない。


「くっ……。んの!」


 だけど、それにもエルドレッドは対応する。ジンの背後。上空に、魔力が通った瓦礫片が浮いている。


「ハァっ!!」

「!」


 エルドレッドが無理矢理、剣を大きく弾いて硬直を作った。今一瞬だけ、お互いに動けない。

 瓦礫片が、ジンへ向かって射出される。


「――――!」


 ドン。


 妙な音が、そこで鳴った。いや、轟いた。瓦礫が肉体に当たった時に出るものじゃない。爆発音? 弾ける音。乾いた夜空に響く、爆音。


「………………!?」


 エルドレッドが。

 どさりと、その場に崩折れた。

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