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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
171/300

第171話 溺れる姫を助ける大きな背中

 バキバキバキバキ。

 木造のホテルの壁が、天井が、床が。『風』によって、破壊されていく。玩具のように。


「危ないっす!」

「ぅ……!」


 リーリンが咄嗟に私に覆い被さる。だが、破壊はそこで止まった。私の部屋の壁は吹き飛んだけど、部屋の中は被害が無かった。


 隣の部屋から、超高密度の魔力を感じる。嫌でも。魔力探知能力がなくとも、強制的に感じさせられる魔力量。

 その重圧。


「おいおい……! 『ネズミ』の匂いがすんぞ! どうなってんだ!?」

「…………!」


 まるで、これも突風かと思うほどの怒号。


 エルドレッド・ギドー。


「…………うひぃ。やーば……。バレちゃったっす」


 リーリンが立ち上がり、一応の戦闘態勢を取る。小刀を抜いて、私とエルドレッドの間に立つ。


 悲鳴と瓦礫の音が続く。ホテルに普通に居た宿泊客やスタッフはニンゲンだ。それぞれが這々の体で逃げていく。ホテルはすでに半壊していた。エルドレッドの風魔法で、一撃だ。


 暑い。空調機は当然に破壊された。夜中の暑さと、乾いた空気。雲ひとつない夜空に、月が浮かんでいた。


「冒険者ギルドメンバーか。場所は隠してんだぜ? あんたが呼んだのか、エルル?」

「…………!」


 積まれた瓦礫に片足を置いて、私達を見下ろすエルドレッド。そうだ。彼は許さないだろう。そもそもギルドは、彼ら国際警察機関と敵対している。


「……えーと。ウチ、戦闘力はほぼ無いんで。オスの魔法使い相手なんて、無理っすね」

「はぁ? なら見付かっちまった時点で終わりじゃねえか。お前もエルルの使用人として刑務所だな」


 姫様、と声が階下からした。ルルゥだ。隣にノルンが見えた。ノルンが、ルルゥを引っ張って避難しているのだ。エルドレッドの戦闘に、巻き込まれないように。

 エルドレッドは、彼が自ら申し出た護衛対象である私を攻撃しない。彼はリーリンだけを、殺すか無力化するつもりだ。一応、降伏すれば命は助かる筈……。


「ははっ。そりゃ無理な話っすね。ウチ、依頼で来てるんで。エルルさんはこのまま連れていくっす」

「ほう? 俺から逃げられると? エルルを連れて? メスのお前が?」

「あははー。それも無理っすね」

「何を隠してる」

「……あはは」


 言う間に。

 エルドレッドの、ロープの魔法が発動した。ラス港で見た魔法だ。複数のロープを操り、対象を捕縛する。あの時は、ナイフを使って凌いだけれど。今は私は魔法を使えない。


「終わりだぜ。冒険者」

「!」






◇◇◇






 一番、最初に反応したのは。

 耳だった。目は、意味が無い。魔力は。


 ジャキン。何か布製のような物質が刃物に切られる音。それが、複数回、小刻みに連続で。

 私達に迫るロープが斬られたことはすぐに分かった。


 誰が?


「………………誰だお前」


 エルドレッドの声。

 咄嗟に目を瞑ってしまっていた私は、恐る恐る瞼を開ける。確かにロープは、私達に到達する前に全て切られて、地面に落ちていた。


 目の前に。


「…………あ」


 背中。大きい。男性だ。ニンゲンの手。剣を握っている。ニンゲンの足。一般的な革靴だ。何の亜人――


 魔力が視えない。彼はニンゲンだ。


 ――まさか。


「間に合った……! 遅いっすよ! アホジン!」


 リーリンが叫ぶ。それを受けて彼は、ちらりとこちらへ振り向いた。


 目が、最初に合った。ばちりと。月明かりで、顔が判別できた。くっきりと。


「………………ジン」

「……エル姉ちゃん。助けに来たよ」


 それからはもう。


「…………っ!!」


 視界が溺れてしまって、何も見えなくなった。

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