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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
170/300

第170話 アホな男を伴う小鬼の忍者

 それは。


 裁判が終わったその日の夜だった。


「誰?」


 知らない魔力が視えたのだ。皆寝静まっている。彼女も、魔力ステルスを使用している。つまり、魔封具を着けていない。違反者だ。


「しーーっ」

「…………」


 声を掛けると、慌てた様子で人差し指を口元で立てた。ニンゲンの手と脚だ。魔力以外は見えずに暗闇の為、細部のシルエットは分からない。何の亜人だろうか。エルフでもドワーフでもハーピーでもビーストマンでもない。勿論ドラゴニュートでも、ミノタウロスでもない。


 小さい。凄く小柄だ。


「どうもっす。ウチ、冒険者ギルドの忍者、ゴブリンのリーリンっす。エルル姫っすよね? 助けに来たっすよ」


 ゴブリン。

 言葉の途中で目が暗闇に慣れた。確かに、額に小さな円錐型の角がふたつある。肌は灰色。瞳は黄色。大きなツリ目をしている。猫のように縦長の瞳孔。

 それ以外は、小柄なニンゲンの女性と変わらない。黒い髪は肩に掛からない程度で短く切り揃えている。


「……エデンから、忍者?」

「はい。知らなかったっすか? ギルドは世界各地の情報を集める為に、ウチら忍者を使ってるんす。大抵は小型の亜人っすよ。ウチみたいなゴブリンに、ドワーフ、カラスのバードマンに猫なんかのビーストマン。普通に魔族も居るっす。吃驚したっすか?」


 驚いた。ゴブリンがそもそも魔族だ。彼女達の種族は、シルエットこそニンゲンに似ているが、肌の色がニンゲンではありえない灰色をしている。それこそが、ニンゲンから差別される要因となったと、昔にルフから学んだ。……いや、魔族どころではない。一般のニンゲンは、ゴブリンのことを魔物だと思っている、と。


「私を助けに?」

「はいっす。オルス政府はエルルさんを手放すつもり、無いっすよ」

「でも、刑期は5年だと」

「それはただの刑期っす。終われば、今度はまた別の理由で留まらせるつもりっす。最近新政府になってから女王(エルフィナ)様との交渉が上手く行ってないんすよ。だから、エルルさんの身柄を抑えることで交渉材料にするつもりっすし、しかもエルルさんで『代用』するつもりなんす。オルスもオルスでニンゲン界防衛のガチ本気案件なんで、エルルさんの人権なんて守られないっすよ」

「…………」


 リーリンは、前合わせの黒装束姿だった。忍者の正装なのだろう。その懐から、冒険者ギルドの証である革靴のシンボルを私に見せた。


「でも、だからってどうして私を助けに?」

「依頼っすよ。オルスを決定的に敵に回してでも、優先すべき依頼主からっす」

「誰?」


 それから、私の魔封具を触る。鍵はエルドレッドが持っている筈。私にはどうしようもない。


「エルフィナ女王っすよ」

「!」


 小声で。囁いた。母の名を。


「……母が、冒険者に依頼を?」

「詳しくは、ウチには知らされて無いっす。けど、確かっすよ。この依頼はギルドマスターを通してウチに回って来たんすから」

「…………それで、あなたひとりでここまで?」


 リーリンはエデンからオルスまで、恐らく密入国してきている。ニンゲン達の警備を掻い潜り、なんならエルドレッドの警戒網を抜けて。音もなく、私の元へやってきた。優秀な忍者であるのは疑いようがない。けれど、ここからどうやって逃げるのか。魔法が使えない私が。エルドレッドの追跡を?


「いいえ。エルルさん。このニュースと依頼を聞いて、真っ先にギルドマスターに直談判したアホな男が、このホテルまで来てるっす」

「………………!」


 その時。


 夜の静寂を打ち破る、巨大な破壊音が振動と共にやってきた。

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