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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
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第168話 不自然な文明の判決

「…………という事情から、被告人には自らの生命と尊厳を守る為にやむを得ず魔法を行使した一定の正当性が――」


 裁判所。入る前から。陽が昇る前から超満員だった。周辺数百メートルまで人が集まり、ごった返していた。


 私を、ひと目見る為に。


「――被告人、エルル・エーデルワイス」

「…………」


 裁判は滞りなく進んでいるらしい。私は未だ一度も発言を許されていない。第三者が、当時の状況を説明していた。隣に立っている弁護士の男性は、私は被害者であり攻撃には正当性があるということを繰り返し口にしていた。


 ようやく名前を呼ばれて、立ち上がる。


「何か弁明はありますか?」


 そう訊ねられる。


「…………」


 傍聴席……。一般国民は無料で裁判を傍聴できるらしい。そこにもぎゅうぎゅうに人が詰まっている。皆が、私に注目している。


 エルフで。

 メスで。

 殺人犯で。

 強姦被害者で。

 そしてエルフの姫である私の、第一声を。


「ありません」


 ざわついた。


 本当に無いのだ。何も弁明する気は無い。

 私がエルフの姫だと知って、明らかに空気が変わり、私を『許す』方向に舵を切っていることに不信感がある。9年前は、どうあっても私に罪の意識をさせようと圧力を掛けてきたというのに。


 だからもう、興味がない。今の私はエルドレッドに敗けたから従っているだけだ。如何様にもしてくれて良い。厳罰ならそれで。無罪ならそれでも。


 何でも良い。早く終わらせて、次の冒険に出たい。

 勿論、オルスに釘付けで一生自由にならないという結果になれば、今度は抗うだろう。その時はエルドレッドさえ敵に回してでも。


 この国に飼い殺されるよりは、彼に殺される方がマシだから。

 この時間なのだ。


 この数日。数週間。数ヶ月。ともすれば、数年。


 私の人生に於いて、無駄な時間。この間、本来なら冒険できていたのに。


 私の寿命は、純血のエルフより短いのだから。


「では判決を言い渡します」


 ええ。早くして。


「禁錮5年。執行猶予は無し。大陸東部イシア女子刑務所への収監とする」


 ざわついた。


 5年。


「横暴だ!」

「姫を解放してください!」

「女性差別です!」

「エルル姫にはニンゲンと同じ人権がある!」


 5年。


 裁判長は静粛にと連呼していた。ここで何を言っても覆ることは無いだろう。私は人を殺したのだ。それが5年の拘束で終わるというのなら、破格の好待遇と言って良い。


 傍聴席からは、私の擁護と裁判長への批判が飛んでいた。


 彼女達も変わらない。私が解放されれば今度はフェミニストの旗印として拘束されるに決まっているのだから。


「………………ふぅ」


 ロン氏の意見は通らなかったようだ。けれどもそれを責めるつもりは無い。オルスからすれば、国民ひとり失っているのだ。到底許せることではないのだろう。

 そして、私もオルス国民である。私を失うこともしたくない。エルフの姫という立場は、政治的にも強いカードであると理解している。


「初めから決まっていたのよね。茶番だわ」

「……はは。鋭いですね」


 独り言を、弁護士に拾われた。やはりそうなのか。

 形式だけが重んじられ、中身のないやり取りが続く。結論はとうに出ているのに、最後までそれを言わない。

 この国に住んで、この国の法律に従っている国民が。この国の法律に従って裁かれた私の判決に対して批判している。


 これがニンゲン社会。確かに、自然界とは真逆。


 不自然だ。

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