第164話 自分で選んだ道
「つまり――」
ロン氏が、車内で全て教えてくれた。今、オルスで起こっていること。私の扱い。
「私は、禁じられた魔法を使ってでも女性差別から脱しようと卑劣な強姦魔を拒んだ…………『フェミニストのヒロイン』としてオルス中のフェミニスト達から支持されている、と」
「その通りですな。しかもそれが、フェミニストの頂点であるエルフィナ女王のご令嬢。『エルフの姫』ともなれば。……国内のエルフフェミニスト達から絶大な人気を博していますな」
「………………っ」
絶句。
言葉が見付からなかった。
「正直なところ、困っております。エルル姫の罪状、森から出た初日の出来事だと思えば、刑自体はいくらでも軽くできます。しかし、簡単に解放すればフェミニスト達に取り囲まれ、担ぎ上げられてしまう。そうなると収集が付かなくなりかねない。今の時点でさえ、先月の議員選挙でエルル姫の名前を書いた無効票が大量にありました」
「…………なに……それ……」
私は。
……オルス国民なのだ。否が応でも、事実としてそうなのだ。11の時に国を出て、今は20。人生の半分しかここで過ごしていないのに。
勘違いをした『現代フェミニスト』の巣窟オルス。その姫だと、勝手に担いで。
「はっ。意味不明。オルスじゃ亜人に被選挙権は無えだろ」
「……ええ。現状では、そうですな」
「よくもこうバカばっか育てたモンだぜ。たった100年で平和ボケするんだ。ニンゲンのどこが『万物の霊長』なんだか」
エルドレッドは私の隣で笑っていた。笑ってる場合じゃない。
全然、笑えない。
気持ち悪い……。
◇◇◇
オルスとしては、現行法に則って私を扱うしかない。どこの王族であっても犯罪者は犯罪者。
向かう先は首都オルシア。私がこの国に滞在する間使用する所らしい。
「2週間。オルシアまで馬車の道を我慢していただきます」
「問題ないわよ。私はレドアン大陸に4年半居た冒険者よ?」
暑い。レドアンよりはマシだけれど、魔法が使えない分、辛い。夏のオルスは暑いのだ。段々と思い出してきた。
「…………母は、この件で何か声明を出したの?」
訊きたいことは多い。この、約9年の間で、オルスや巨大森に変化はあったのか。
「いえ。一切の沈黙を」
「……何故バレたの? いつバレたの?」
「巨大森出身の若いエルフ達から。……2年前に」
「…………子供達、ね。私より少し年上の。ああ、20歳になったから森を出てニンゲン社会に」
そうか。母が黙っていても、いずれはバレる運命だったのだ。なら、仕方無い。彼女達は、あれからそのままフェミニストに育ったのか。
どうするか。私は彼女達に付き合う気は無い。どれだけ担ぎ上げられようと、私はフェミニストではないのだから。
はっきりと自分の意志を伝える。それしかないだろう。
「……エルドレッド」
「んん?」
「あなたは私を護衛すると言ったけれど。それは武力からよね。言葉の暴力や論戦では、あなたの出番は無いわね」
「…………ぁあ、そうだな。だが、あんたが口喧嘩に負けそうになったらその相手を殺すことはできるぜ」
この男は。
色々足りない。強さだけの男だ。溜息が出た。いや元々、期待なんてしちゃいけない。
「それは悪手よ。それと、誰が口喧嘩で負けるって?」
「……はは。なんだそんな顔、4年振りに見たぜ。面白え。裁判? 論戦? 期待してるぜ」
どこへ行っても、どこまで行っても、苦しい戦いを強いられる。
それが、私が自分で選んだ道なのだ。森に留まってフェミニストになっていれば、今頃は母と優雅にオスを貶しながら午後を過ごしていただろうに。




