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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
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第163話 身に覚えの無い歓声

「そろそろ着くぞ。準備しろ」


 エルドレッドが、ノックをせずにドアを開けながらそう言った。ノルンもそうだけど、ちょっとデリカシーが無いのではないかしら。まあ犯罪者の私に人権が無いのは分かっているけれど。


「…………」


 だからって、着替え中なんだけど。いやまあ、私は犯罪者だから何も言えないけれど。


「自分ん(種族)の! 姫の! オッパイを! いつまで見てんのよ! もう!!」


 そして、ノルンが自分のことを棚に上げて吠えた。


「良い!? エルルあんた、ぶりっぶりの若いメスなんだからオスの視線には敏感になること! 何よそのチチ! ケツ! 細っそいコシ! エッロい太モモ! 猥書モデルかあんたは!」

「…………ごめんなさい意味がわからないわ」


 レドアン大陸を出発して、2週間。生理も終わり、体調は悪くない。リハビリは余りできていないから杖はまだ必要だけど、取り敢えずは。

 オルス大陸上陸の準備は整った。






◇◇◇






「?」


 港に着く前から。声が聴こえていた。ルフほどでは無いけれど、他の種族より聴覚はある方だから。


「…………なに、あれ」


 甲板に出て、エルドレッドの隣まで来て。

 目を疑った。


――エルル様――


――姫様――


――お帰りなさい――


 そんな声が、沢山していたからだ。


「…………俺が知るかよ。さあ上陸だ。魔封具着けろよ。オルスに居る間は」

「あなたは?」

「俺は特例だっつの。天下の亜人狩り様だぞ」

「…………」

「……睨むなよ……」






◇◇◇






 お帰りなさいエルル姫。そうデカデカと書かれた横断幕があった。意味がわからない。私はオルスでは、『殺人エルフ』として嫌われる立場だった筈だ。


 下がってください。列を守って。危険です。警備員らしき人達が、必死に群衆を抑えている。


 私を、歓迎しているらしき人達が、ぱっと見ただけでも100人以上。いやもっとだ。港に押し寄せている。


 杖を突いて船から降りた私は、エルドレッドの横に付く。彼のことは信頼していないけれど、護衛として優秀なのは間違いないからだ。私は魔法が使えない。今は、彼の庇護下に居るしかない。


 私を出迎えたのは、オルスの役人らしきスーツの男性だった。目付きの鋭い30代くらいの人だ。勿論ニンゲン。この場に居るのは私とエルドレッド以外全員ニンゲンだ。ノルンはまだ船内だ。人目に付くのは避けたいらしい。魔族のビジュアルは、ニンゲンには刺激が強いのだろう。


「オルス国警察庁国家公安局局長代理、ロン・マークスです」

「……国際警察機関亜人犯罪対策部一級捜査官、エルドレッド・ギドー」


 ふたりは名乗ってから握手を交わした。ロンという男性は180くらいの長身だけど、2メートル越えのエルドレッドと比べると親子のようにも見えた。大きすぎるのだ。エルドレッドが。


「やあ、英雄に会えるとは」

「俺は影のモンだ。こんな場所で英雄なんぞと呼んでくれるな。局長代理殿」

「失礼。それで……」


 ロン氏が私を見た。

 ……無感情。何も感じなかった。淡々と、業務的な視線だった。


「そちらがエルル被告……いや。オルス国指定特定文化的亜人保護区主任管理者、エルフィナ・エーデルワイス女王のご令嬢。エルル・エーデルワイス姫ですな」

「そうだ。身柄はあんたらに引き渡すが、俺はこのまま姫の護衛として同行する。そういう話だろ?」

「ええ勿論。では早速、馬車をご用意しております。こちらへ」


 エーデルワイス。久々にその名を聞いた。母の名も。

 やはり、私の身元がバレたのは母が関係しているのだろうか。


「きゃぁぁぁあっ! エルル様ぁ!」


 特に、女性からの歓声が多かったように思う。意味がわからないまま。


 私は無抵抗に、その用意された馬車に乗せられた。

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