第161話 やるせなく終わる旅
エルフの姫、レドアン大陸にて確保。
そのニュースは全世界に知れ渡ることとなる。ニンゲンのニュースが拡がるのは風より速い。
今、オルスではどのように報道されているのか。私はどうなってしまうのか。
全く分からない。
「エルル」
「……ルフ」
1ヶ月の療養の後。
最低限、杖を使って歩けるようになった私は、今日レドアンを出発する。ノルンはリハビリ期間が足りないと怒っていたけど、オルスからの要請がしつこいらしい。
「またね。生きてさえいれば、いつか会えると思うから」
「エルル」
私達は多くを語らなかった。分かっていたからだ。
このニュースはエデンにも伝わっている筈。ならルフは、元ヒューザーズの皆が助けてくれる筈。
私は違う。アーテルフェイスとオルスはゲンの時に揉めている。今度は全面戦争になってもおかしくない。
あの『賢者』である大長老が、そんな愚かな選択をすることは無い。彼には既に、新たな子供が産まれている。私が死んでも、血は途絶えない。寧ろ、ニンゲンの血が混じった私の方が、邪魔者……かもしれない。
私に助けは来ない。
「最後に抱き締めて良いかしら」
「……どうぞ」
私達の旅は終わった。
◇◇◇
船。
客船ではなく、国際警察の専用機。魔法で動く小型の高速船だという。マストも帆も無い。原理は分からないけれど。
個室を与えられた。魔封具もされていない。
けれど、部屋の外は常に警官隊の人が3人程度巡回している。一番奥の部屋だから、袋の鼠でもある。
「……まるで要人警護ね」
「まるでじゃねえ。そのものだ。脱走や攻撃の意思が無い限り。俺達に従う限りは自由だ」
「…………不自由に他ならないけれど。私が逆らえば私とルフが殺されるのでしょう? それくらい分かっているわ」
「……まあな。俺としてもそれは望まない。生活や介助の為の多少の魔法は認められてるから、それで我慢してくれ」
「………………随分優しいのね」
エルドレッドは本当にオルスまで付いてくるみたいだ。
……この、安心感。彼が私を守るという……事実。
不快だ。
「エルフ種族の姫だからな。何かあったら呼べ」
「…………」
今更。
あなたにエルフの姫と扱われても、困る。
彼が退室してから、ベッドに座る。
ころりと倒れる。
……ルフの居ない生活が始まる。
「エルル! 入るわよ!」
「ノルン……」
ノルンがノックをしながらドアを開けた。私はなんとか上体を起こして、座り直す。
「次の生理は1週間後くらいだったわね? エルドに言っておかないと」
「…………彼、分かるの?」
「エルドの元妻はニンゲンよ」
「えっ」
ノルンは私に付くことになった。まだ完治していないのと、エルゲンのフォローがルフ以外では彼女にしかできないからだ。魔界には、私のようなエルゲンの子孫は一定数居るらしい。
少し、希望のある話だ。
「ああ、病気で亡くなったから今は独身よ。最強の狩人。皆狙ってるわね。『強い』というのは問答無用で本能に働きかける『モテ』要素だもの」
「…………そう」
「確か、故郷での幼馴染みだったらしいわ。最初の女って訳。だから忘れられなくて再婚する気ゼロ」
「…………」
別に。
エルドレッドの私生活に興味がある訳じゃない。けれど、知っておいて悪いことは無い。
「……惚れてる訳じゃないのね」
「それは無い……とは、言い切れないわね。あなたの言う通り、有無を言わさない絶対的な『強さ』はそれだけで他の要素がどうでもよくなるくらいに魅力的だもの」
「あら、あっさり認めるのね。他に良い人居るんだ」
「ええ。既に決めたオスが居るわ。私にとっては、その彼は別に強くなくたって良いの」
ジン。
あなたは今、どこで何をしてるのかしら。
すぐ会えると思っていたから、尚更、やるせない。
5年の約束、果たせそうに無いわ。




