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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第1章:楽園と地獄の狭間で
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第16話 男社会で生きる女性の趣旨

 主義。

 思想のことだ。日頃から思っている意見や主張のこと。


 その人が『そう思っている』というものが、主義。


 つまり、その事柄の正誤は関係無い。正しいものひとつを信じれば良いのなら、この世に主義は存在しない。

 人は信じたいものを信じる。


「主義を意味するイズム。これに、古い言葉で女性を意味するフェミアを合せて、フェミニズムです。女性尊重主義、という意味合いですね」

「常に女性を尊重するという主張を持つ人達、ということ?」

「はい。その女性尊重主義を持つ人……『主義者』のことを、フェミニストと言います」


 ルフは女性だ。ここには女性しか居ない。なのに、ルフはその、フェミニストを嫌いだと言う。それだけ聞けば不思議だ。


「今からおよそ、200年前。とあるニンゲンの国で、革命が起こりました。当時の王政府に対して、国民に権利を認めさせることが主目的でした」

「出た権利」

「はい。それまでは、王政府の命令は絶対で、全く逆らえませんでした。良い政治で経済が順調なら良かったですが、景気が悪くなっても変わらず、国民は苦労を強いられました。命令は横暴になり、税金は上がり、労働は増え。国民の溜まった不満は遂に爆発し、武装して議事堂を占領、王を捕まえて処刑しました」


 その革命のこと自体は、他の教師から教養として教わっている。けれど、詳しい内容は知らなかった。


「人は皆、生まれながらに自由である。職業、宗教、結婚、転居……。法に触れない範囲で、税金を納めている範囲で。あらゆることを、自由に行って良い。それが人としての基本的な権利。……人権である」

「……人権」

「王の首が落ちた日に、そんな宣言がなされました。人の生きる社会に於いて、その権利を皆で保証する。それが人権であり、今日までの歴史で常識となったのです」

「常識……か」


 この森は、常識とは掛け離れた所にあると思うのだけれど。他の社会と共通することはあってもおかしくない。それほどに、人権というのは世界に浸透しているんだ。


「そして、我々女性にとって重要なのがここからです。王の斬首によって終結した革命で宣言された国民、人間とは。……男性のことを指していたのです」

「えっ。どうして?」


 ルフは、話が上手いと思う。私の反応を楽しんでいる気がする。


「仕事は男性がします。経済も男性が回します。政治も男性。娯楽も男性。商売も男性。……女性とは、この頃、男性の所有物という扱いだったのです」

「所有物? そんな……」

「古来より、家と家、または国と国との間で友好の証に、お互い娘を送り合っていたという風習があります。とある国では、妻は夫以外に決して肌を晒してはならないという文化もあります。妻は夫だけのもの。夫は妻を、最も大事な所有物のように大事にしていたのです」

「…………大事。けど人として扱っていないんじゃないの?」

「姿は人ですから。人と同じように朝起きて、一緒に食事をして、同じトイレ、バス、ベッドを使いますよ」

「…………」


 所有物。モノ。そう言われて良い気分はしない。けれど、大切に扱われていたというのも、確かなのだろう。そのふたつは矛盾せず、同時に行われる。


「金。酒。女。……溺れるなよと、言われた3つの誘惑がありますが。女性が女性に溺れることは、一般的には想定されません。全ては男社会での言葉。基本的に、世界は男社会なのです」

「それを、どうにかしようとしたのが、女性尊重主義……ということ?」

「その通りです。女性にも、男性と同じ地位を。家を。暮らしを。……権利を。所有物からの脱却。嫁ぎ先は自分で選ぶ。好きな格好をして、やりたい仕事をする。これが、フェミニズムの当初の趣旨でした」

「…………良いこと、じゃない」


 それだけ聞けば不思議だ。

 誰も否定しないだろう。そんなこと。何故、ルフはそんなフェミニストを嫌っているのか。

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