第159話 終わった後の会話の機会
「……護、衛?」
「俺達は国際機関だ。オルスの要請で動いてる。だから罪状の詳細は知らねえのさ。このままオルスまで護送することになってる。その間。そんで、オルスに着いてからの期間。まあ恐らく裁判と実刑だろうが……その間。誰にも、お前達を傷付けさせねえよ。ああ、ルフは別だ。お前の罪状と依頼はヒューザーズ時代、キャスタリアのアバル王国からだな。そこでも恐らく裁判だが、そっちにはワフィともうひとり俺の同僚を付ける。筋は通すぜ」
「………………」
訊く。
その間、エルドレッドと目を合せ続ける。
彼が、私達を騙すつもりが無いことはもう分かっていた。
「……エルル」
「………………」
上を見る。空を。小屋の天井は、エルドレッドが豪快に吹き飛ばした。
…………敗けだ。
「……分かったわ。投降、する」
「ああ。賢明な判断だ」
こんなことで、賢いと言われたく無かった。
私達は敗けた。
「ルフ……」
どさり。
私が宣言すると同時に、ルフが倒れた。剣は手から離れて落ちた。
呼び掛けに応えが無い。気絶したのだ。
「ちょっと待てノルン」
「駄目よ! 何のためにワタシを連れてきたの!? 治療するわ! 担架を早く!」
それから。
「…………」
あまり、覚えていない。私も気を張っていたのだ。すぐに意識を手放したんだと思う。
◇◇◇
私達は国際警察機関亜人犯罪対策部、捜査官エルドレッド・ギドーと捜査官ワフィ・フォルジュロンによって逮捕された。
ケルス国でそのまま、ノルン率いる医療チームによる集中治療の後、それぞれ依頼国に移送されることになった。ルフは、キャスタリア大陸アバル王国へ。私は、オルス大陸オルスへ。
ルフの罪状は暴行と窃盗、器物損壊、その他多数。
私の罪状は殺人と器物損壊、魔法使用、脱走。
「リハビリが要るわよ。最低でも2ヶ月!」
「………………」
ミノタウロスのノルンは、凄まじい技術で私達を治療していった。縫合と輸血の魔術は私には真似できそうにない。これは、4年前にウラクトで会ったドラゴニュート、ユラスの魔術に似た感覚がした。魔界の医療魔術なのだ。
「エルド! まだ駄目だって!」
「もう目ぇ覚ましたんだろ」
「ちょっと! ……もう!」
清潔な部屋。亜人狩り達の組織は人材も資金も潤沢であるようだ。ホテルひとつ、貸し切っているらしい。それも、高級な。
「…………エルドレッド」
「よう。気分はどうだ」
ベッドをふたつ並べて、私とルフが使っている。一緒に治療した方が効率が良いらしいのだ。それと、私達が気を失っても手を繋いでいたから、そのままにしておいてくれていたのだとか。
今はルフは眠っている。彼女の右手を、布団の中で握る。
エルドレッドが部屋に入ってきた。
「……良くは無いわよ。絶望してる」
「そうか」
「…………?」
彼は椅子を引いて、どかりと座った。重そうな音だ。体重は、私の3倍はありそうだ。
「……話を。してぇと思った」
「…………あなたの仲間を殺したこと?」
そう言うと、彼は苦笑した。
「違えよ。アレはもう良い。フルエートの家族は俺が守ってる。お前が心配することじゃねえ」
「……そう。あの3人のことは?」
「ああ。亜人狩りってのは公式機関の非公式部署だ。候補生も危険性を分かって入隊してる。アレもお前達の罪にはならねえ」
「そう……」
「あそこまでして、お前が捕まりたくなかった理由だよ。何故だ? 投獄されても精々数年か十数年だろ。エルフとしちゃ、大した問題にならねえ年数だ」
「…………」
私も。
「……あなたはどうして、私を捕まえたの? 殺すのではなく」
「…………はっ。そんなことか」
私も、話してみたかった。
どうして、ニンゲンの言いなりになって働いているのか。ワフィには以前訊いたけれど。彼も同じ理由とは限らない。
殺し合う仲だった私達が、奇しくも対話の機会を得た。




