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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第7章:最強の狩人との決着
156/300

第156話 逆風に向かい固める決意

 誰かが。ずっと。


 手を、握ってくれていた気がする。


「エルル!」

「…………ぅぅ……。くっ」


 熱い。


「はぁ……。ふぅ……っ。る、ルフ……ね」

「エルル! 良かった。少し、楽になりましたか」

「……はぁ、はぁ…………。そう、なの?」


 目を開けた。動けない。目以外は動かせない。

 森の匂いがした。懐かしい匂いだ。ここは、木の家か。


「動かないでください。寝ていてくださいね。…………エルル」

「ルフ。…………はぁ……っ。う……。ルフ」

「はい。ルフはここです。ここに居ます。……私達はまた、勝ちましたよ。亜人狩りを3人、殺しました」

「…………ルフ」


 今もだ。左手を握ってくれている。魔力を感じる。優しい魔力。ルフのだ。一番よく知っている大好きな魔力。そうか。ずっと、手を通して治癒魔法を掛け続けてくれていたんだ。

 なんとか、彼女と目を合せたい。ルフは座っているようだ。木造の床に、私は横たわっている。


「……はぁ……。ふぅ。あなた……も、怪我を」

「はい」


 苦しい。けれど、多分前よりマシになったのだ。

 ルフは、頭に……全身に包帯を巻いていた。血が滲んでいる。左目が隠れている。まさか。


「あなた眼が」

「はい。あのハーピーに潰されました。けれど一撃で仕留めましたよ。それからすぐにエルルの方へ向かったのですが、間に合わず。……エルルの脚が」


 脚。そうだ。ここが痛い。熱い。今やっと気付いたくらいに、どこが痛いのか分からないほど痛かった。


 左脚――……。


 ある。


「……ここは、ペルクスの街道から外れた森林地帯です。あの後私はエルルと左脚を持ってここに隠れました。凍結(フリーズ)を使って、血痕から追われないように。今はこの古小屋全体にステルスを掛けています」

「…………ぅっ。はぁ……っ」


 絶対に呻いてしまう。苦しい。


「脚は、第一に治癒魔法を流し込みました。応急処置に過ぎませんが、いずれはくっ付く筈です。エルルも、亜人ですからね。これが純粋なニンゲンなら、難しかったと思います」

「…………あなたの、眼も……治る?」

「治りますよ。エルルの後で、自分で治癒魔法を掛けますから」


 ある。

 けれど、動かない。動けない。感覚が無いのか、あるのか。分からない。ただ痛い。この痛みは、脚の先から来るのか。そうでないのか。分からない。


「…………寝ましょう。エルルに必要なのはそれです。私が、守りますから」

「……待って。ぐ……。ふぅ……。私の荷物。フーエール先生の、薬、が」

「これですか。私にはどれがどれだか分からずで」


 私は今回の旅で、ポーチとして常に身に付けているものがある。それがフーエール先生に貰った薬箱だ。絶対に役に立つと思って。今がその時だ。


「痛み止め。それと、魔力生成を助ける増幅薬。ルフあなた……が。はぁ。魔力を快復しないと」

「…………これですね。分かりました。痛み止めは、エルルですよ」

「……ええ……」


 ルフは、この小屋に魔力ステルスを掛けながら、私に治癒魔法を施している。そんなの、保たない筈だ。どこかで、ステルスは私が代わる必要がある。


「……魔力ステルスは、私が……ぅ。やるわ」

「あなたは寝ているべきです。ただでさえ、治癒魔法の魔力で侵蝕が進むのに」

「今は、魔力侵蝕は良いわよ。……あなたが側に居るもの」

「………………」


 ふたりで。

 支え合うのだ。どれだけ逆風でも。不利でも。


 必ず帰る。エデンへ。

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