第149話 姫達の凄い得意分野
「羨ましいですわ」
「えっ?」
武闘場では、ルフがフーナの護衛の男性ドワーフと組手を行っていた。私達は休憩中だ。フーナがぼんやりとルフ達を眺めながら、そう呟いた。
「魔力量。飲み込みの早さ。そして魔力強化の強度。それらが、エルルさんにはありますもの」
「……フーナには、知識と経験値があるわ。それに、伝家の宝刀、探知魔法。そして、純血の亜人ということ」
「…………エルルさん」
ドン。
大きな音が鳴った。ルフが、ドワーフの男性を投げ飛ばしたのだ。勝負あり。魔力強化と刃に布を巻いた剣のみの、純粋な試合だった。
「聴こえましたよ。全く、あなた方は何も分かっていませんね」
「ルフ」
私からタオルを受け取り、汗を拭くルフ。私とフーナの視線は彼女へ向いた。
「エルルもフーナ姫も、魔力量にそこまで差はありませんよ。それと、魔術適性もあります。……私にはそれらは無いのです。贅沢な悩みに見えますよ」
「…………」
フーナと目を合わせる。
「わたくしは、組手で男性には勝てませんわ。女性なのにも関わらず、男性相手に互角に勝負ができるルフさんは異常ですわよ」
「……私のは、ただの技術と経験です。この国の兵士は実戦経験が少ないようなので、裏を掻けるだけです。魔力強化だってエルル以下です。エルルも、リスク度外視ならその辺の男性に引けを取りませんよ」
私達は――
「そもそもね。私からすれば、あなた達ふたりとも純血じゃない。魔力侵蝕が無いことが私にとってはどれだけ羨ましいか。分かる?」
「エルルもフーナ姫も、才能に溢れているのです。私だってエルフの王の血筋なのに、魔法の才能が無くて苦労したのですから」
「それを言うなら、わたくしは魔力強化が下手ですわ。ですから、防御は全て土魔法頼り。固定砲台しかできないのですわよ」
「…………」
それぞれ、得意分野が違う。
「ふふっ」
「あっ。笑いましたわね。もう」
嬉しくなったのだ。
何か現実が変わった訳ではない。けれど、気持ちが楽になる。
私は、他人から羨ましがられる部分があると。
「……良いですわね。旅、楽しそうですわ」
「フーナもしたら良いじゃない。世界を巡って、知らない魔法も沢山ある筈よ。それらを出会う為の旅」
「ああ、良いですわねぇ。いつかやりたいですわ」
フーナは自他共に認める魔法愛好家だ。その知識欲はきっと、この山に収まるものではないだろう。
あるのだ。姫としての務めが。
私達がそう察したことに気付いたフーナが、柔らかく微笑んだ。
「……ドワーフはメス不足と言ったでしょう? そもそも、メスが生まれる確率が低いんですわよ。原理や理由は分かっていませんけれど。わたくしは来年20歳になって成人すると、すぐに結婚ですわ。相手はまだ決まっておりませんが。……そして、少なくとも女児をふたり産むまでは、この山を降りることは許されていませんのよ」
「………………なるほど」
フーナは三女だ。姉ふたりに万一が無い限り国の運営や外交には携わらない。けれど、王女だ。国民に対して示すべき、果たすべきことがある。
「どれくらいの確率なんですか?」
「4対1程度ですわね。ですから確率的には、10人。……これから先12年、13年以上は、まだ山を降りられないんですの」
「……!」
それも凄い世界だ。メス不足。
「ドワーフのメスは、平民でも姫と呼ばれるんですのよ。それだけ貴重なのですわ」
「……知らなかったわ。じゃあ、フーナが三女ということは……」
「ええ。お姉様はふたり。そしてお兄様は、12人居りますわ」
「!」
ドワーフ社会を教えて貰うのも、交換条件のひとつだ。
興味深い。私の知識欲も、ここで満たされていく。




