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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第6章:魔の道を往く姫君
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第145話 全身全霊の代償

 フーナは、普段から射撃(シュート)魔術を使用している筈だ。ならば私の火の玉飛ばしファイアーボールブロウは速度が足らず当たらないと思われる。


火の玉(ファイアボール)……10連」


 なのに、彼女は私の火の玉を土の結界で防ぐつもりのようだ。つまり、回避には自信が無いのか。


「!? なんですの!? 小石射撃(ストーンシュート)!」


 私が風に乗って突っ込んでくることにも驚いている。そうか。彼女の基本戦法として、土の結界で防御を固めてから射撃魔術で弾幕を展開するのだ。ああ確かに、強い。


 私は全力で、全身に魔力強化を施す。さらに速度が上がる。最高速。風とひとつになる。石の弾丸は私に擦り傷を作るだけで、当たらない。


 フーナは動けない筈だ。土の結界から出れば火の玉が襲い掛かるから。


「きゃあっ!」


 ドカン。


 最硬度。魔力強化した私の左手が、土の壁を穿った。

 そのままフーナの服を掴み、土の結界を内側から破壊しながら、強引に引き摺り出す。


 ボコン。


「え? えっ!? きゃ!」

「――――飛ばし(ブロウ)


 胸ぐらを掴んだまま。私は空中に漂わせておいた10個の火の玉を、順番に飛ばしていく。


「魔力強化で防御しなさい」

「!?」


 ドカン。


「がぁっ!? げほっ! ごほっ!」

「ぐ……。ごふっ!」


 1発。凄まじい熱と衝撃。頭が揺れる。命が、揺れる。だけど負けたくない。


「次、行くわよ」

「なっ!?」


 ドカン。

 当然、私も巻き込まれる。火の玉はその性質通り、弾ける時にとにかく周囲を巻き込む。


「がはぁっ!」

「ぐぅっ!」


 口から煙が出る。ああ。良いな。


 心地良い。


 身体が焦げ始めている。喉が熱い。声を出すのも苦痛だ。


 これは一撃でもニンゲンを殺害できる威力なのに。お互い、我慢強い。よく耐えるな。

 それでこそ。


「3発目――」


 ゆらり。握力が限界だ。ああ。


「げほっ! げほっ! ちょ、こっ! ここ、降参ですわぁ〜っ!! げほ!」

「!」


 ピタリ。


 その叫びで、私の火の玉は止まって消えた。


「…………私の勝ちね」

「と、とんでもない……。けほっ! けほっ! ……あなた、頭オカシイんじゃありませんの……?」

「…………ふふ」


 手を離すと。

 その瞬間、私は前のめりに倒れて意識を手放した。






◆◆◆






 次に目を覚ましたのは、どうやら2日後だったらしい。


「目が覚めましたわね」

「…………」

「あっ。動いてはいけませんわ。右腕の損傷が激しいので。全治1ヶ月ですわよ」

「………………ぅ」


 フーナは、その2日で完全回復しているようだった。自慢の髭は少し短くなっていたけれど。ピンピンしていた。


「エルル!」

「あらぁルフさん。そんなに慌てなくても」

「違います。これはエルルの()()症状です。私が今から伝えることを信じ、そして必要な物を用意していただけますか?」

「……げっ、けい?」


 ああそうだ。

 来ている。


 重い。しんどい。ああ。経血が出ている。

 フーナはきょとんとしている。知らないのだ。亜人には無縁だから。いくらニンゲンの王国と繋がりがあっても、そんなことまで共有しない。アラボレアへ来る使者もきっと、皆男性だろうし。


「……魔力、侵蝕……が」

「はい。分かっています。無茶しすぎです。起きなくて良いです。もう数日寝ていてください。ルフェルに貰った香を焚きますから」


 侵蝕が重い。駄目だ。胃の奥が、ぐるぐるしている。


「がぷ……」

「きゃあっ! 血を」

「魔力侵蝕です。過度に驚く必要はありません。いつものことですから」

「そっ。そうなんですの……?」

「エルル。タオルです。もうお任せ下さい」

「…………ええ」


 今回は少し変則的だ。ああ、こんなに魔法を使ったのも久し振りだからだろう。上から下から、血液が流れ出る。


 私が正面から全力で戦うと、その勝敗に関わらず()()()()


 これでは勝ったとは言えないわね。

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