第14話 権利について知る権利の行使
私達には権利がある――。
森の大人達の話を、いくつか聞いて。キーワードだと感じたのが、『権利』という言葉だ。
母も言っていた。私がまだ、知らない言葉。
「ねえルルゥ」
「……はい。姫様」
話し掛けると、魔力が乱れるルルゥ。まだ私を警戒しているのか、母への申し訳無さを感じているのか。繊細なメイドだ。これ以上乱さないように私も気を付けたい。
継続して行っている魔法の練習で、最近分かったのだけど。相手の身体に巡る魔力を視ることは、誰にでもできることではないらしい。巨大森では、私の他には母しかできないとか。だから遺伝だ。
母はエルフの女王だ。けれど、昔からの王族じゃない筈だ。この森で女性のみのコミュニティを立ち上げてからそう呼ばれるようになった。だから私は、王女でないけど姫なのだ。
「権利について、教えて欲しいの」
「……それは、ルフ様にお尋ねになられては」
私を避けているルルゥ。この魔力の乱れは、恐怖だろう。『普通』を私に教えると、母の信念と反するから。母からの罰を恐れている。母はまだ、私を賢いと思っているから。ヒューイとの出会いも、ルフとの授業も知らない。
でも、ルフからの情報だけを信じるのも違うと思うのだ。
「ねえ聞いて。確かに、私には優秀な賢者の教師は沢山居るわ。そして、その中にあなたも居るの。私はこの件を、大好きなルルゥから聞きたいと思ったの」
「ひっ。姫様……?」
両手を取って。目を見て伝えた。結果、ルルゥの魔力はさらに大きく乱れてしまった。落ち着かせようとしてしたことだけど、逆効果だったかもしれない。
魔力の流れが見えると言っても、思い通りにはできないらしい。なんとか落ち着かせて、謝らなければ。
「かしこまりました」
「ルルゥ?」
「私に説明できる範囲でよろしければ、ご説明いたします」
「……ありがとう。けれど大丈夫?」
「はい。ありがとうございます」
ルルゥは、頷いて。私の手を握り返して。その金色の瞳を私に強く向けて。承諾してくれた。
何が起きたのか。恐怖はまだ治まっていないようだ。なのに、彼女から出てくる言葉と視線は、私を肯定してくれている。興奮しているのか、頬も少し赤い。これはどういうことだろうか。
きっと訊いても答えてくれないだろう。そんな予感がした。
魔力の流れが見えると言っても。大まかな感情が分かるとは言え。人の心を読むことはできない。その思考を読むことは。
「……そうですね。権利とは、簡単に言いますと『して良いこと』、『しなくても良いこと』という意味です。例えば姫様には、私達メイドに命令して何かをさせる権利がございます」
「……その立場から、法律を破らない範囲でできる可能な範囲の、周囲と法律から認められた行動……を、主張するということ?」
「…………!」
メイドに命令できるのは母と私と、後はメイド長だけ。それは、命令できる立場にある者だけだ。
そして、だからといって、メイドの身を危険に晒すことが許されるとは思わない。そして、メイド自身が嫌だと感じたら、先程までのルルゥのように、断りたい意思を命令者に伝えることもできる。……これも権利の一種か。
私なりに解釈したことを伝えると、ルルゥは固まってしまった。何か変なことを言っただろうか。間違いがあるなら修正をお願いしたい。
「……その通りです。もう、ご自身で大方の予想は付いていたのではありませんか?」
「そうかもしれないわ。分からないものを分かる前に、考察はするけれど。それを固定観念にはしたくないの。だから、今ルルゥと答え合わせができて嬉しい」
「……姫様」
けれど。ルルゥとはそれが答えで一致したけれど。森の大人達の主張とは少しズレているような気もする。
きっと明確な定義は無いのだ。言葉の意味に定義があったとしても、実際に使用される際は少しずつ変化していくのだろう。
そうやって千年、言葉が変化すれば。古代語と呼ばれるようになるのだろう。
人という単語のように。