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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第6章:魔の道を往く姫君
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第138話 対等な交換条件の魔法

 ドワーフの姫。つまり、私の目の前に立っている人は。


「……ドワーフの、姫? それが何故、こんなところに直接」

「あらぁ、不思議でして? わたくしは『三女』ですわよ? 国にとってはお姉様達の『予備』でしかありませんわ。普段は自由に動けるんですの。今日はたまたま麓近くまで降りて来ていたので、見張りさんがわたくしに報告してくださいましたの」

「…………なるほど」

「それで、エルルさんにルフさん。亜人狩りとなったドワーフを殺す為に、ドワーフについて知りたいとのことでしたわね」

「ええ」


 にこり。柔らかく笑っている。彼女が姫。種族の姫。私と同じ――

 いや。

 私は冒険者をやっていて、姫としては無責任なことをしている。ここへ来て姫を名乗れない私と彼女を、同列に語るのは失礼だ。


「冒険者の御仁」

「!」


 彼女――フーナの背後から、男性の声がした。


「フーナ様への礼儀と言葉遣いを、正していただきたい」

「…………」


 私は。

 これまで基本的に、誰に対しても対等に言葉を遣ってきた。それも私のスタンスだった。ユーマンへも。ゲンにさえ。大長老でも、だ。


「エルル。ここは説明を――」

「待ってルフ。そうね。私は――」


 地位など、冒険者には無い。人は巣立てば、自然界で生存競争をする。その対等な場に、上下関係は存在しない。

 だけど、無用に彼らを不快にさせることは無い。それを説明しようとした時。


 ドカン。


 背後、大砂漠の方から爆発音が聴こえた。


「…………なに? ジャイアントワーム?」

「あらぁ。思ったより早く来ましたわねぇ」

「!」


 もう、夜に差し掛かっている。視界は悪い。巨大なサンドワームがこちらへ直進してきていることは、探知魔法で分かった。

 気配と魔力を出しすぎたのだろうか。いや、フーナの言葉が気になった。


「あなたが呼んだの? 呼べるの?」

「砂笛、という道具がありますの。そうそう。わたくしがあなた方へ提案しようとしていたことと関係がありますのよ。……まずはあれ、対処できますこと?」


 あんな大きなモンスターを使役できるとなれば、破格の軍事力だ。そうして、砂漠のエルフは敗けたのだろうか。


 ともかく、大型のワームが1匹、迫ってくる。馬車の3倍ほどの速さで。


「……あれくらいなら、このまま何もしなくても良いわ。私達の風の結界は、大砂漠のどんなモンスターでも破れはしない。そのように鍛えたんだもの」

「!」


 突っ込んでくる。巨大な身体とその重量に任せて。押し潰そうと。

 だけど、それは私達の所に到達する前に、止まった。


「ギャィ!!」


 妙な鳴き声。ワームの口や頭が裂けている。そのままワームは地面を掘り、地中の無効へ去っていった。


「…………何をしましたの?」


 フーナが固まっている。


「見えないかしら。風よ。私達を中心に円形に広がる風が砂を巻き込んで滞空し、近付く者を切り刻む。風だから、見えないでしょう? 今は食べるつもりが無いから殺さなかったわ」

「…………! 素晴らしいですわぁ!」


 パン、と。フーナは驚きを一拍に変えた。そして。


「では、御礼に。わたくしの魔法もお見せいたしますわね」

「えっ」


 ドン。


 さらにもう1匹。ジャイアントワームが迫ってきていた。フーナは私達を通り過ぎて、矢面に立つ。周りのオスドワーフは動かない。護衛ではないのか。


水浸し(アクアドロウン)!」


 フーナはパチンと指を鳴らすと、それを合図に水の塊が現れる。丁度盾のように、それでワームの突撃を防いだ。

 けどそれは、私にもできる魔法だ。ワームが苦しみにのたうち回るから、あまり使わないけれど。


「暴れると痛いですわよ。凍結(フリーズ)!」

「!」


 カキン。


 ビュウと、冷たい空気が伝わってきた。前方。フーナの指先から。


 彼女の作り出した水の塊は、ワームを覆っていた。それが全て、一瞬の内に凍ったのだ。白い氷塊に閉じ込められて、停止した。


「……わたくしは食べるつもりですから、凍らせて鮮度を保ったまま、山の上へと運びますわ。さあ、こちらへいらして? エルルさん、ルフさん。これで決まりました。わたくしがあなた方を山へお招きする条件は、『魔法交換会』ですわよ!」


 フーナはこちらへ向き直って、ウインクを飛ばした。

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