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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第6章:魔の道を往く姫君
135/300

第135話 準備万端で危険なふたり旅

 丸2年。

 ここで修行した。

 18歳になった。


 砂漠の魔法を完全にマスターした私は、そのまま大砂漠を一周して。


 無傷で生還した。

 以前は魔物の群れに襲われてどうしようもなかったけれど。

 今はもう。この砂漠で死ぬ気はしない。何十年だって生きていける自信がある。


「あー。だぶっ!」

「おー? はは。エルルの白い肌が珍しいってよ」

「ふふ。可愛いわね。やっぱり赤ん坊は本当に可愛い。キノを思い出すわ」


 旅立ちの日。

 とても可愛い女の子を産んだルヴィと、里の皆が見送ってくれた。エドフィンにフィールに。皆。


「ルヴィはあとどれくらい滞在するの?」

「んー。実は思ってたより孕むの遅くてな。ちょっと手紙で、レンに遅れるって報告してる所だ。やっぱしばらくはオレが面倒見たいしな。一応乳離れまでは」

「良いなあ、お母さん。ここなら皆手伝ってくれるみたいだし。安心ね」

「おう。まあヒトの群れとしちゃそれが普通だと思うけどな。オレも今後何度か帰って産むし、50年後くらいにはレンも死ぬ。それから商会辞めて帰ってしばらくは産んだり育てたりするぜ。オレも砂漠のエルフだからな」

「…………商会、辞めるのね」

「そんな顔すんなよ。オレはレンに誘われたからやってるだけだからな。……別にお前との縁が切れる訳じゃねえだろ。ここに来りゃオレは居るんだからよ」

「……そうね。また会いましょうね」

「おう。遅くとも再来年にゃまた船に乗ってるよ。アーテルフェイス商会をご贔屓に。ヒメサマ?」

「あははっ」


 ルヴィとはしばらくお別れだ。彼女からも沢山学ばせて貰った。良い教師だった。


「それとルフ」

「はい」

「ルフェルのことは任せろ。な?」

「…………」


 ルフは少し目を見開いてから、諦めたように笑った。


「……先に言われてしまいました。私、意外と顔に出やすいのですかね」

「オレが暗いのに敏感なだけだ。オレはどっちかってーとルフェルよりルフの方が心配だぜ」

「そこは大丈夫よ。私が居るもの」

「エルル」

「ははっ。おう。フォローし合うのは良いことだぜ。女ふたりの旅だ。男一人旅より危険だぜ」


 ルフは冷静であるがゆえに、時々凄くネガティブになることがある。ルフェルと働いているルヴィには、ルフを見て何か感じるものがあるらしい。


「それじゃあ」

「おう」

「お世話になりました」


 里の結界から出ると同時に。私達は魔封具を装着した。

 お揃いの、鼠色の魔封具を。


「さ。行きましょうか」

「はい。……それで、どこへ向かいますか?」


 訊かれて私は、顎を撫でた。


「…………結局、誰も教えてくれなかったけれど。この砂漠のエルフの里が戦争のやり方に詳しかったのって、どこかと争っていたからよね」


 当然考えていた。次の目的地。


「……山地のドワーフですね。口伝ではありますが、山をドワーフ達に追われたから、レドアンのエルフは砂漠に出るしかなかったと。数千年前の伝説ですよ。けれどそれからずっと、小競り合いは続いているようです。ここ100年程は落ち着いているみたいですが」


 ここから、更に南。

 遠近感が麻痺してきそうな地平線の先に、緑色の山が薄っすらと見える。……筈だ。真っ直ぐ進めば。


「行くのですか? 敵地ですよ」

「私はオルスの森林エルフだし、エデンの冒険者よ。……ドワーフのことも知らなきゃいけないじゃない。ワフィの探知魔法をどうにか掻い潜らないと、折角訓練した魔法が使えないわ」

「探知対策は魔封具と魔力ステルスで良いのでは?」

「……魔封具を着けた私達はただのメスじゃない。初回に意表は突けるけれど、それで殺せるほど甘くない筈よ。やっぱり魔法戦になる。できることはしておきたいの」

「…………分かりました。私はエルルに付いていきますよ。どこでも」

「ありがとう」

「それに、なんだかんだと理由を並べても、結局はドワーフの里に行ってみたいという探求心では?」

「……ふふ。ルフにはお見通しね」

「まったく……」


 久々にルフのジト目を貰って。準備万端。


 私達は旅を再開した。

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