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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第6章:魔の道を往く姫君
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第130話 生物として悲しい感情

「おっ。エルル姫にルフ姫に……ウチのルヴィか。良いねえ。綺麗どころができてる。酒が進むなあ」

「おい声を落とせ。それ、キャスタリアの方だと『性的侮辱』だぞ」


 耳がぴくりとした。そんな会話が聴こえたからだ。

 宴の席。とは言っても、殆どお祭りだ。大量の魔物の肉を焼く鉄板が各所にあって、女達が焼いている。男達はそれぞれ立ち寄って、好きに取って食べ、酒を飲む。立ち食いしている人も居れば、魔法で椅子やテーブルを作って集まっている集団も居る。


 私達はひとつの鉄板に3人囲んで、自分達用にお肉を焼いていたところ。


「ルフ。性的侮辱って?」

「性平等思想ですね。人の容姿について何か言うことは批判されます。たとえ、褒めることであっても」

「かーっ。本当に肩凝るぜ。キャスタリアは」

「ルヴィ」


 私はすぐにルフに訊く習慣ができている。ルフも私を理解している。すぐに、そういう会話になる。


「そりゃよ。『不細工』ってのが侮辱になるのは分かる。だがよ、『別嬪』も駄目なんだぜ? 意味わからん。何が駄目だってんだ。言われたら嬉しいだろ?」

「男性から言われた場合、『性欲を向けられている』と解釈します。それを不快に思う女性が、声を挙げた結果。容姿を褒めることも侮辱()()()()()()()()のです」

「な? 意味わからん。容姿を褒めることがイコールで性欲に直結してるってのもまず意味わからんが、だとしてさあ。オスに性欲向けられるってよ。メスとして優秀な証だろ。喜ぶだろ普通。それとも一切メスとして見られない方が良いか? んなもん、どうやって子を産むんだよ。どのオスにも見向きもされねえって、生き物として悲しすぎるだろ。良いか、メスはオスを魅了しなきゃいけねえんだ。じゃねえと血が途絶える。滅ぶぞ」


 確かに。

 砂漠のエルフと、そのキャスタリアの思想は相反する。両者が理解し合うことは難しいと思う。


 砂漠では、毎日が命懸け。

 けれどキャスタリアは先進国だ。内戦しているシプカはさておき、先進国なら命の危険は少ない。


 すると、子孫を残そうとする意思が薄れていく。性欲を不快に思う人が出てきてもおかしくは、ないようにも思える。


「ルフはどうなんだよ」

「容姿を褒められているのなら、悪い気はしませんよ。普通」

「だよなあ。エルルは?」

「えっ。そりゃ…………。ルフと同じね。貶されるより褒められた方が良いし。でも」

「でも?」


 ああそう言えば。

 私達は別にキャスタリア出身じゃない。エデンがキャスタリアの近くにあるから、その誤解が生まれたのか。


「……性欲を向けられるのは、苦手、かな。私、砂漠のエルフ達には申し訳ないけど、子を産みたい相手は、たったひとりだから」

「…………」


 オスの。メスへの『褒め』は、基本的に全て性欲に繋がっている。それは理解できるかもしれない。

 それを悪いとは思わない。生物として大事なことだ。それがあったから、我々ヒト種は今日まで命を繋げてきた。

 そして。その性欲が個人レベルで実るかどうかはまた別問題だ。古今東西、オスはメスを奪い合ってきた。同じオスと、メスを巡って争ってきた。


 オスを選ぶ決定権は、メスにあるのだ。メスに選ばれるために、オスは必死になって自分を飾ったり、鍛えたりするのだ。丁度、エドフィンのように。


「あ〜。気にすんな。ジンはニンゲンだしな。オレら砂漠の文化はキャスタリアだけじゃねえ、普通のニンゲンにも受け入れ難いってのは、オレだって知ってるぜ。けど、メスとして基本的に」

「分かってるわ。私も、女を磨かなくちゃ。……ジンに再会した時に、魅了できるように」

「……その意気だ。エルル」


 彼らは酒の肴として、私達を視界に入れて楽しんでいるだけだ。

 私達の服装が乱れている訳でも無い。

 別に襲っては来ない。話し掛けても来ない。当然だ。ただの観覧と会話で私達に、実害など無い。

 気にしなければ良い。嫌なら去れば良い。

 もし襲われても関係無い。私は亜人狩りという男性を殺す為に鍛えているのだから。


「ああ、それと。嫉妬もあるでしょうね。隣の女が美人だと褒められていると、美人でない自分が悔しいのです」

「…………それはもう、普通に性格悪いだろ。磨けよ。それか自分の容姿を好いてくれる男を探す努力をしろ。不細工なのがイイって男も居るし、そもそも容姿を気にしねえ男も居るだろ」

「……その努力は、美人であれば必要ないので、嫌なんじゃないですか?」

「じゃあもう分からん。努力しねえでモテるなんざ美人だけだ。モテたいけど努力も嫌とか、もう好きにしろよって話だ」

「その結果、美人の方を引きずり下ろすという今のキャスタリアの性平等思想があるのです」

「『自分が美人であるなら』を最低基準にするとか、生きるの辛そうだな。先進国民の考えることはやっぱり分からん。裕福で恵まれてるから暇なんだろうな」


 たったそれだけのことで不快に思い、さらにそれを相手にぶつけるほど、心狭くは無い。

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