第129話 全盛期の王の血筋
日が暮れる前に、戦士達は帰ってきた。今日はサンドグリズリーが獲れたらしく、宴の準備だと女達にも気合が入った。
「お帰りなさい」
「ただ今戻りました」
ルフは、オスの戦士達に付いて狩りに同行している。これが、彼女の修行だ。基礎と知識を既に持つ彼女には、実戦が一番良い。
「姫様」
ルフはひとりの男性と一緒にやってきた。彼は私を見ると片膝を着いた。
筋骨隆々、紺色の髪をドレッドヘアにした砂漠のエルフの戦士。ルヴィの幼馴染でもある、エドフィンだ。
「エドフィン。お帰りなさい。立って。あなたの姫様は私じゃなくてこっちでしょ」
「ははっ。エドフィンお前、そんな礼節できたんだな」
隣のルヴィがからかう。エドフィンは私に小さくぺこりとしてから立ち上がった。
背、高い。2メートルあるんじゃないかしら。
「うるせえよルヴィ。良いか、今の所俺が『一位』だからな。そこんとこよろしく頼むぜ」
「はっはっは。何度も言わせんなって。オレは『自由』を求めてレンの船に乗った。お前の子は産むが、オレは誰の女にもならねえ。オレの『心』は砂漠には無え。海の上だ」
「…………ふん」
結婚という概念は、この里には無い。
砂漠のエルフは、その厳しい自然に抗って生き残る為に、そういった文化で乗り切る歴史を選んだ。
乱婚文化だ。
全員が、生まれた時から全員の子供で。やがて兄弟姉妹達と交じり合い。全員の親となる。
どうせどれかは自分の子なので、全員が、自分の子として愛し育てる。そこに分け隔ては無い。全員が家族である為に、非常に強固な信頼関係がある。
勿論、『よく一緒にいるふたり』というのもある。恋愛が無い訳じゃない。けれど、誰しもがいつ死ぬか分からないのだ。
少なくとも私の知るオルスほど、配偶者への独占欲は無い。
エドフィンには既に子供が居るし、その子を産んだメスも居る。そのメスも、別のオスの子を産んでいる。
みんな仲良し。……分かりやすく言うとそんな価値観だ。
「ルフはどう? エドフィン」
「はい。吃驚ですよ。普通に、俺達オスエルフの速度に付いてくる。魔法も余裕で実用レベル。そこらの弱いオスよりは全然、動けますね。流石は冒険者と言ったところです。あのレベルのメスは、この里にも数人くらいしか居ないでしょう」
褒められると私も嬉しい。けれどルフを見ると、浮かない表情だった。
「……いえ。改めて力の差を痛感しました。私は結局、平凡なのだと思います。オスのような鍛錬を積んだから今の実力があるだけで。私の筋力も魔力も、もう才能の上限一杯……だと思います」
「ルフ」
ルフは今、28歳だ。恐らくは、エルフとして。
今が、肉体の全盛期。そしてそれは、成長の限界を意味する。
「後は、センスです。それと、経験。知識。知恵。…………私の能力を、もっともっと、上手く扱うこと。それを磨いていきます。エドフィン殿。明日もご指導お願いします」
「は、はい。……姫様」
「私は姫ではありませんよ?」
「待ってルフ」
「はい?」
エドフィンはルフにも礼節を使った。ルフは、忘れてるのだ。
「あなたも、大長老ルエフ・アーテルフェイスの来孫でしょう。長子の直系でなくとも、草原の血が濃くても。エルフの王の血筋。今日、教えてもらったのよ。他の集落のエルフからすれば、あなたも、『エルフの姫』なんですって」
「………………なんと」
自分が、エルルの再従姉妹だということを。




