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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第6章:魔の道を往く姫君
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第128話 個人差のある砂漠の掟

 里のオスは勿論戦士だ。大砂漠に生息する魔物を狩るのが仕事。魔界の魔物であるデザートドラゴンのような怪物は居ないけれど、それでも非常に危険な魔物が沢山出現するのがこの大砂漠だ。


「やってるな〜。エルル」

「ルヴィ。今日は私もこれでおしまいよ」


 そんな大砂漠で、私達は魔物の群れに襲われた。魔力侵蝕の進む私と、戦闘魔法の苦手なルフ。ふたりの連携も上手く取れず、万事休すだった。

 そこに、偶然にもルヴィが現れたのだ。彼女の火と水の魔法によって魔物達を追い払うことができ、この里に案内してもらった。


「レン達は元気?」

「ああ。変わんねえよ。まあオレ達は冒険者じゃねえし、平穏だぜ」


 ルヴィ、ピュイア、ルフェル。レンの船に乗る亜人の彼女達は、定期的に『休暇』が貰えるらしい。今はルヴィの代わりに、短期で雇った亜人が船に乗っているのだとか。


「火の玉飛ばしの練習してたのか」

「ええ。最大距離と、最大速度を測っていたわ。今のところは、狙って当てられるのは45メートルと、時速200キロ前後ね」

「まあまあ充分じゃねえか! 森のエルフの専門外なのによ。しかも練習始めたの昨日とかだろ。やっぱ天才か。『エルフの姫』ってのは」


 ルヴィも変わらず、綺麗な金髪と美しい褐色肌。そして気の強い所が外見から分かるような雰囲気と佇まい。男勝りというのだろうか。一人称がオレ、だし。


「魔力侵蝕は大丈夫なのか? 月経ってのは」

「ええ。あれから結構、自分でもコントロールできるようになってきたのよ。月経は……どうにもならないけど。そこは、ルフも居るし。なんだかんだ、旅は続けられているわ」

「そっか。なら良かった。……いやいや。オレと会った時魔物の群れのド真ん中で死にかけてたじゃねえか」

「それは……。ルヴィが来てくれたから助かったわ。ありがとう」

「……かーっ。お前も変わってねえなあ」

「だってまだ、港でさよならしてから3ヶ月くらいよ?」


 まだ日がある。私は大事を取って、魔力侵蝕が進む前に訓練を終えたのだ。男達とルフは狩りに出掛けている。


「……けれど、ルヴィに会えて良かったわ」

「お? オレも口説くつもりか?」

「え? オレ()?」

「うーん。無意識。そうか子供の心のまま大人の頭になるとそうなるのか」

「それ、ルフにも言われたわ。……思春期、まだなのよ。私」

「焦んなって。そもそもエルフの個人差ってのはニンゲンと全然違う。あと10年来なくたって気にすんなよ」

「…………それは初めて言われたわ。ルヴィは凄いわね」

「ははっ」


 里の中は風の魔法で守られていて、砂嵐の影響を受けない。それどころか水の魔法も張られていて、熱も遮られている。昼間は光だけ入って明るく、夜は魔法の結界の中からでも星が見える。


「ルヴィの休暇はいつまでなの?」

「んー。2年くらいかな」

「えっ? 2年?」

「ははっ」


 私が驚きの声を上げると、ルヴィは嬉しそうに笑った。


「商会と里との間でも色々取り決めがあってな。オレは今回、子を産みに戻ったんだ。一族のお役目って奴さ」

「…………結婚ということ?」

「ま、そんなとこだ。商会の仕事があるから頻繁には産めねえ。今回は、若衆で一番狩りの成果を上げた男の種で孕むことになってる。あと数日で決まるだろうな。楽しみだぜ」

「…………」


 価値観の多様性というのは、レンの船で習ったのだ。今更、この話で驚きはしないけれど。


「恋愛では、無いのよね」

「馬鹿野郎。今の若衆は全員生まれた時からの付き合いだ。誰の子種でも歓迎だぜ。今頃あいつら必死になって狩ってるだろうな。オレは同世代じゃアイドルだったんだぜ」

「……そう」


 砂漠のエルフから、学ぶことは多い筈だ。

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