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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第5章:誇り高き戦士達
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第125話 人間関係に直結する言葉選び

「ルフも、もう私に敬語なんて要らないのに」

「伝え方というのは、とても大事なのです」

「どういうこと?」

「同じことを言うのでも、言葉選びや様々な状況によって、受け取り方が違ってきます。例えば、私がエルルに『水をください』と言ったとしましょう」

「はーい」


 殆ど反射でカップをルフの口に持っていく。


「……ごく。いえ、例えば、です。ですがありがとうございます」

「あ。……ええ」


 素直に飲んでくれたルフ。


「ここで、私が『水を持って来い』『私は腕が使えないのだから当然だろう』。……こういう風に伝えると、エルルは嫌な気持ちになるでしょう」

「そうかしら」

「………………」


 睨まれた。

 こういう場合は、一般的を考えるのだ。そして、肯定しなければ話が続かない。ルフが伝えたいことは、この会話の後ろにあるのだから。


「……まあそうね。びっくりはすると思うわ」

「これから行く先々で、ふたりの関係は悪化していくと思いませんか」

「……ええっと」

「私達は今、お互いに支え合っています。そして、その度、お互いに感謝をきちんと伝えています」

「ええ。勿論よ」

「その感謝が無くなるのです。支えられて当然だと思うのです」

「…………」


 想像する。

 ルフの『ありがとうございます』がもう聞けない。私も言わない。


「嫌ね。そんなの。何故かは、言葉にできないけれど」

「同じ『水が欲しい』。なのに、言葉が少し違うだけで人間関係が壊れます。旅は続かず、やがて終わる。……伝え方とは、それ程までに大事なのです」

「そうね。その通りだわ。ずっとルフと仲良くいたいもの」

「そして、その気持ちは一方が持っているだけでもいけません。双方、お互いに思いやらねば成立しないのです」

「ええ。いつもありがとう。ルフ」

「…………はい」


 真正面から感謝を伝える。恥ずかしいけれど大事なことだ。あと、恥ずかしがるルフを見るのも好き。


「だから、私はエルルに敬語を使わせてください。距離が遠いのではないのです。私達はこれが、最善だと思っています。私はエルルに対して敬語を外すことで、無意識にエルルへの敬意が、今より薄れてしまうことが恐ろしいのです。エルルはどうですか?」

「…………そうね」


 そうだ。

 無理にお願いすることでもない。これで上手くいっている。


「ルフがそうしたいのなら、そうした方が良いわね。ごめんなさいね。何度か、お願いしちゃったわね」

「いえ。そういう、エルルの素直な所が好きですよ」

「…………嬉しいわ」


 好きと。

 言い合う、確かめ合うことも重要じゃないだろうか。言わずとも分かっている、とは言え。

 やっぱり言われて嬉しいから。


「エルルはまだ少し、精神が幼いかもしれませんね」

「そうなの?」

「勿論、頭は大人顔負けの論理的で現実的で、聡明で強い女性です。けれどまだ、心は。思春期前の少女のような気がします。……恥じらいのない好きの連呼も」

「…………思春期。来るのかしら、私に」

「心配しなくても来ますよ。個人差がありますから、少し遅いだけでしょう」

「……私、ルフに嫌なことを言ってしまうようになるの?」

「それは分かりません。けれど、今日ここで気持ちを確かめ合ったでしょう。私はそれを信じます。エルルがどんなになっても変わりません。思春期、反抗期というのはいずれ通り過ぎて、落ち着くのです」

「…………今の内に沢山言っておくわ。好きよルフ。早くジンと、3人で一緒になりましょうね」

「…………はい。私も楽しみです」


 この2ヶ月は、ルフと沢山、ゆっくりとお話できる機会でもあった。


 思春期。反抗期。

 もう既に、母に反抗して今ここに居る。父は、そもそも服従していたことが無い。


 ならば。

 私にこれから来るのは性愛の目覚めだけではないだろうか。


 もしルフに対して何か思うようになっても。

 この頭で。冷静に対処してみせる。

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