第123話 意味のない生来の殺人者
「エルドレッドは全治1年です」
「えっ」
そう。そこが気になっていた。ルフは2ヶ月の大怪我。エルドレッドは私がナイフを刺しただけだ。動けていたし、心臓は外した。先に退院して、私達を待ち伏せされると逃げ切れない。正面からふたりを殺す作戦を2ヶ月で練らなければならないと思っていた。
「……心臓は避けました。けれど、刃は肺と魔臓には達していました。……特に魔臓は修復に時間を要します。亜人にとって第二の心臓ですからね。ニンゲンには存在しない臓器なので研究も進んでいませんし。……まあそれは良いです。本題に入りましょう」
「…………」
ワフィは自分達がどうしてニンゲン社会で生きているのかを説明してから。本題に入った。
「あなた達ふたり、『亜人狩り』になりませんか?」
「!」
これを、言う為に。
「冗談でしょ?」
「いえ。正当な評価の上での勧誘です」
「私はメスよ。それに、あなた達の仲間を殺しているわ」
「フルエートのことですか? 誰も気にしません。あなたには、実績がある。エルドレッドはエリートだったんですよ? それを。メスふたりだけで。……2度も。切り抜け、勝利した。1度目はオスのエルフをひとり殺している。とんでもない生存力です。はっきりいうと異常だ。……既にあなたは、ニンゲン界で最強のメスエルフです」
褒められている気は、しない。
「……たまたまよ。何かが噛み合わなければ、私が死んでいたことばかり」
「思うに、『やるべきときにやる『』というのは才能なんですよ」
「?」
ワフィは、仕事の為に同族を殺している。目的の為に。生活の為に。
それは。
「一度『敵』と認識したら。一切の躊躇無く刃と魔法を振るう。……『殺人者』の精神を持っている。あなたは生来の殺人者だ。エルル」
「………………」
それは。私も同じなのだ。私は私の冒険の為に、邪魔になる彼らを殺すつもりでいる。今も。
彼らが私を追う限り。
「私の考えは違うわ」
「はい?」
「人は皆、生来の殺人者よ。まだ殺していない人は、たまたまそれまでの人生でそんな機会が無かっただけ。……今からレイプされて殺されるのよ。誰が大人しくされると言うの?」
「…………オルスでのことですか。僕には真相は分かりません。人を殺して裁判から逃げたからと、僕らに依頼が来ただけですから」
「良いわよもう。終わったことだし、どうせ信じない。あなた達にとって、私は殺人エルフで、同族殺しなのでしょう。それはもう受け入れているわ。どうでも良い人からの評価なんてどうでも良いもの」
「…………交渉決裂ですか」
「やっぱり、亜人同士だと話が早いわね。私は、個人的に好きなニンゲンは居るけれど。種族としては大嫌いなの。ニンゲン側に私が行くことは無いわ」
「……分かりました」
ワフィは悲しそうな顔をした。まさか、本当に私が受けると思っていたのだろうか。
「……僕らはエルドレッドが快復したら、すぐに探知魔法を使います。あなたを追う為に」
「…………ドワーフの探知魔法ね」
「はい。探知範囲は言えませんが、自分でもかなり広いと自負しています。戦闘能力ではなく、この探知魔法でエルドレッドに直接指名されましたからね」
「……そう」
「最後の通告です。自首しませんか? 僕らはあなたを殺すつもりはない。身柄を拘束して、オルスに引き渡すだけです。道中は快適な旅を約束します」
「私の答えは決まっているわ。『私の冒険の邪魔をしないで』」
「……!」
何かが噛み合えば。そんな道もあったかもしれない。オスのエルフの戦士と、肩を並べて。
「殺したくないのはこちらも同じよ。けれど、殺さないと終わらないのでしょう? だから、次は殺すわよ。亜人狩りエルドレッドと……ワフィ」
「良いでしょう。次が最後です。せいぜい、探知されないよう魔力を抑えて『冒険』、してくださいね」
意味のない仮定だ。
彼らは亜人狩りで、私は冒険者なのだから。




