第121話 複雑で大真面目な関係
「ねえシェノ」
「はい?」
顎を撫でる。私達はこれまで、色んなことをあやふやにしてきたのかもしれない。
「私とルフは、いずれ同じ男性と『つがい』になるつもりなのよ」
「えっ!」
ピン。と、シェノの尻尾が伸びた。おもしろい。
「同性婚ではなくて、重婚ということよね。夫ひとりに、妻ふたり。なら私とルフの関係は、やはり同性婚になるのかしら」
「……ええっと。……どうなんでしょう。というか、重婚ですか……。一応ウラク王様も側室のビーストマンは居ますけれど」
勿論確定している訳ではない。私達がそのつもりであるだけで、ジンとはそこまで話していない。
けど、今はそれで良いと思っている。彼との関係だってこれからなのだ。
「……夫を中心にしたハーレムですから、私とエルルは共に同じ夫を持つ妻でしかありませんよ。婚姻関係はジンとエルル、そしてジンと私があるだけです」
「そうかしら。子供ができたら一緒に育てるでしょう?」
「それは……。私達はそうですが、全ての重婚家庭がそうとは限りません」
「それはそうよね。でも、だからこそ私達だけの家族関係も良いじゃない。私はジンを夫に。そしてあなたを妻にするのよ。逆に私も、あなたの妻なのよ。どう?」
「…………主体は別にジンではない、と?」
「ええ。寧ろ、私達ふたりの妻がお互いを好きでないと家庭内不和が起こるじゃない。いつもルフは私を支えてくれているし、私もあなたを支えたいのよ」
「…………」
シェノが口を覆って尻尾をぷるぷるさせている。そんなに恥ずかしいことを言っただろうか。
「ねえ、そう言えば私ばかり、あなたを好きと言っているわよ。ルフの気持ちを聞かせてくれない?」
「…………それは」
「あなたの口から。言葉として」
嫌がってはいない。けれど困った顔。私が、彼女を振り回す時の表情。
これも好きだ。この、ルフを好きな気持ちが同性愛でないのならなんなのだろう。
性愛とは、なんなのだろう。
「…………分かりました」
「!」
やがて、ルフは諦めたように溜め息を吐いた。
「では大真面目に答えますよ」
「え……。え、ええ」
甘く睨まれた。真剣な顔。少し、緊張した。
「私はジンに恋をしていますが、エルルのことは愛しています」
「!」
あ。
顔が熱い。急に。
恥ずかしい。
「私の優先順位はエルルが一番です。これは、エルルが『エルフの姫』だから、という訳ではありません。その出自。経緯。オルスでのこと、エデンでのこと、これまでの旅で。私はエルルに、絶対に幸せになって欲しいし、必ず目的を達成して欲しいと、強く願うようになりました。良いですか。エルル。何を置いてもあなたが私の一番です」
「………………!」
人のことを言えない。こんなに、絶対、赤くなっている。震えている。
ルフが。私を。
「……これで、私の恥ずかしい気持ちが分かりましたか?」
「……………………ぅ」
見ると、したり顔で。今までの仕返しとばかりに。
「だってあなた、恥ずかしい素振り全然しないじゃない」
「それは私の努力です」
私が好き好き言った時は無表情を崩さないくせに。私ばっかり、ぐちゃぐちゃになってる。
「…………抱き締めて良いかしら」
「怪我に障るので駄目です。2ヶ月我慢してください」
「う…………」
言葉にならない。ルフのことを一層好きになる。
「……ああ、これは言っておきましょう。シェノ」
「ひゃっ。ひゃい……?」
シェノは。私より真っ赤になっていた。
「私とエルルは同性愛者ではありませんよ。ふたりの間に性的なことは何もありません。私達はそういうことではないのです」
「…………ひゃ……ぃ」
人間関係は複雑で、十人十色。
私達には私達の関係がある。




