第120話 大陸唯一の社会制度
「……と言う訳で。今回の依頼はこれで達成ね。まあ、殆ど何もしてない、ただの運だけど」
亜人病院にて。未だ全身グルグルのルフに報告する。シェノと一緒に。
「それは良いのですが、報酬は」
「ええ。レナリア大陸に行った時に、案内してくれることになったわ。それと、私のことをドラゴニュートの王に報告してくれるって。魔界最強種族と縁ができたのよ。何よりの報酬だわ」
今回のユラスからの依頼はギルドを通していない。厳密にはこれは冒険者の仕事ではなかった。けれど、私にとっては関係無い。初めての依頼達成に心躍っている。
ユラスはニンゲン界の通貨を持っていないし。
「それで、これを」
「?」
シェノが、個室に取り付けてある机の上に巾着袋を置いた。
ジャラリと金属質の音が鳴る。中身は金貨だ。
「王様から預かってきました。本来これから、ユラス様の捜索依頼に使う予定だった報酬です。つまり、王様はギルドに依頼するつもりだったようです」
「…………良いの?」
「はい。そもそも一国の王が冒険者に依頼することは国際情勢を鑑みてもありえません。内々でやる予定だったようです」
「…………」
ウラクトの王とは、結局謁見は叶わなかった。王が市中に下りてくることも無かった。
けれど、国民から、特にビーストマンから慕われていることは伝わってくる。
本当に好きなのだ。
「そう。ならありがたく頂いておくわ。私達、ギルドの依頼を殆ど受けていないからお金が無いのよね。ルフの治療費の為にいくつかここで仕事をしようと思っていたから、助かるわ」
「エルルが自由過ぎるせいですけれど。この国に入っても一度もギルド支部に顔を出してすらいませんし」
「もう。良いのよ。好きにするって、大長老にもギルドマスターにも言ってるんだから」
「…………」
そんな私達の掛け合いを、シェノが不思議そうに見ていた。尻尾が揺れている。少し顔も赤い。
「どうしたの?」
訊くと。
「……あの、おふたりってもしかして、『同性婚者』ですか……?」
「!」
そう問われた。
「どうせい……こんしゃ?」
知らない単語を復唱しながら、ルフを見た。ルフは少し考えて、口を開いた。
「……同性同士で、結婚すること、また結婚した者を言います」
「そんなことがあるの?」
「まず、結婚とは、『男女がつがいとなる』ことを言います。言葉として、『同性婚』というのは意味をなしていないあべこべな言葉です。何故ならオス同士、メス同士でもつがいとは言わず、子もできないからです」
「……まあ、そうよね」
「しかし、生物として自然界での『つがい』ではなく、ヒト種の社会での『結婚制度』を比較して、同等の権利義務の発生を行うものとして、同性同士の『つがい』を例外的に認めることがあります。それを便宜上、『同性婚』と呼びます。最近作られた造語ですね」
「……社会での便宜上」
同性愛は知っている。私はルフが好きだからそれではないかと思ったこともあったけれど、違うらしい。私の好きは性愛ではないのだとか。
「このレドアン大陸では、ここウラクト王国が唯一、同性婚を社会制度として法律で認めています。……大陸の外からわざわざ、メスのエルフがふたり来た。それらを勘案すると、シェノの目には私達がそう映ったということでしょう」
「なるほど……」
シェノを見る。まだ赤い。彼女、なんだか可愛らしいな。ビーストマンだからだろうか。
「えっと、違うのですね……。おふたり、見た感じとても仲が良さそうで。そういう、関係なのかなって、思っちゃいました……」
「…………ふむ」
どうなんだろう。ちょっと、踏み込んで訊いてみようかな。




