第119話 竜を狩る最強の竜人
駆け出した。
気配を絶ちながら、風のようなスピードで。砂海に足を取られることなく、飛ぶように駆けていく。
当然、デザートドラゴンは気付く。砂に埋まっていた頭を地上に出して、吼える。
砂色の角。大きく鋭い牙。そのひとつひとつが、私の身体と同じくらいの。
跳んだ。高い跳躍。彼はスピードをそのままに、垂直に飛び上がった。ドラゴンは上空を仰ぐ。
光った。そこからジグザグに閃光が走る。直下のドラゴンへと、一瞬の攻撃。
「わっ」
思わず声が出た。衝撃がここまで来たのだ。
「落雷の魔法」
「えっ」
シェノが隣に立って、実況してくれる。
直撃を受けたドラゴンはそれでも無事だった。所々焦げているけれど、ダメージにはなっていないようだ。ぶるぶると頭を振って、再度吼える。
砂が、巨大な槍のように鋭くなって何本も地面からせり上がった。ドラゴンの魔法だ。槍の先は研磨されていって尖り、臨戦態勢となった。
あの規模。どれほどの魔力量なのか。再現するなら私が20人は必要だ。
「あそこ」
「!」
私が眼で追えていない。ユラスは既に砂海に着地していた。沈まない。キラリと虹色が光ったら、もう別の場所に居る。
ドラゴンを翻弄している。砂の槍は何度か発射されるも、全て明後日の方向に飛んでいく。着弾地点で砂は細かく砕かれて拡散する。当たれば間違いなく即死。けれど、彼には当たらない。
自分の周囲をチョロチョロする虫に苛立ったか、ドラゴンは滅茶苦茶に暴れ始めた。巻き込まれれば命は無い。けれど、その範囲外に既に。
虹色が光る。それは稲光を帯びていき、バチバチと音が鳴る。
直後、雷鳴が轟いた。
ゴロゴロゴロと。それから、ピシャリ。弾けるような、爆音。
「爆雷光撃」
シェノは楽しそうだった。誇らしそうだった。
ユラスから繰り出された拳から、光の帯が直線に伸びていく。稲妻を帯びた光線がドラゴンの頭部を含む首から胴体に掛けての身体を包み込んでいく。
「やった!」
シェノが拳を握った。
爆発が起きた。焦げた砂の粒が熱風と共にこちらまで飛んでくる。私は風の魔法を周囲に張りながら、決着を見届ける。
「…………!」
黒焦げになったドラゴンが、煙を吹きながら砂海の水面に叩き付けられた。そのままズブズブと沈んでいく。魔力は、途切れた。
死んだのだ。
「ドラゴニュートには民族ごとに得意魔法があります。ユラス様の輝竜族は、雷の魔法が得意なんです!」
シェノが得意気に胸を張った。
◇◇◇
「よっと」
「ユラス様! 格好良かったです!」
討伐の証として、巨大な頭部を切り取って戻ってきたユラスに、シェノが尻尾を振り回しながら駆け寄る。
「……凄いわね。魔族は皆あんなに強いの?」
「いえ。我々はドラゴニュート。魔界最強を自負しております。……まあ、私はただの見張り番ですが」
魔界最強。
それを実際に垣間見た。
ニンゲンは本当に、どうやって、彼らと国境を争い、魔界へ追い出せたのだろうか。
思わず見惚れてしまっていた。
見た魔法を模倣する?
できる気がしない。




