第117話 語る獣人の娘
「私は、ミーグ大陸で亜人狩りに捕まった後、真っ直ぐレドアン大陸に連行されました。……このウラクトで、最初にお墓に連れて行かれました」
シェノが語る。ルフはベッドに寝たまま。私は隣に椅子を置いて。
「私を迎えてくれたのは、王様でした。……墓を指して、これがお前の母の墓だと言われました」
レナリア大陸からここまでの経緯を。
「母は、ミーグ大陸で娼婦をしていました。私を産んで、捨ててから。それから、ウラクト王国の獣人保護部隊に保護されたみたいです。母はここで王様に仕えて、けれど病気で、1年程で亡くなったそうです」
獣人保護部隊。ウラクト王の私設部隊だ。その噂は知っている。世界中に派遣して、社会的弱者として虐げられている獣人を保護して国へ連れ帰るのだ。
ミーグ大陸の、ニンゲン界の端まで行っていたとは驚いたけれど。
「母は、私のことを悔いていたと教えて貰いました。ずっと気にかけていたと。……亜人狩り……国際警察に依頼して私を捜すほどに」
「それであなたも、ウラクトへ来たのね」
「はい。私も母を捜そうとしていました。レナリア大陸からミーグへ渡る方法をユラス様から聞き出して。魔界の魔法も練習していたので、気持ちが逸ってしまって。そこを見付かって、半ば強引に、連れて来られました」
シェノは奴隷にはなっていなかった。これは朗報だろう。誰かに虐げられたりはしなかったのだ。
「王様に言いました。私は、レナリア大陸に帰りたいと。けれど、私ひとりでレドアンを越えて、海を越えて、ミーグ大陸を旅するのは許されませんでした」
「…………そこでユラスの噂ね。捜索隊を組織すると言っていたわ」
「ユラス様がウラクの近くまで来ているのは私も匂いで分かっていました。けれど、ユラス様は隠れるのが得意なので、特定まではできませんでした。だから、王様にお願いして、捜索隊を組織してもらったのです。昨日はそれで、あの旧市街地の辺りを捜索していました」
「…………そう。良かった。そのお陰で、助かったわ」
「……いえ」
礼儀正しい。ユラスの教育だろうか。彼女からは高貴さすら感じる。
「……あの。それで」
「ええ。ユラスの居場所を知っているわ。けれど砂海の奥なのよ。少し危険だわ。一緒に行きましょう」
「は、はい。お願いします」
「という訳だから。ルフ、少し待っていてね」
「……分かりました。あそこはデザートドラゴンの縄張りですから、無茶だけはしないでくださいね」
「ええ」
「あの」
「ん?」
シェノは、少し顔が赤くなっていた。熱……ではないようだ。
「あの。アーテルフェイスって……もしかして」
「ああ、知っているかしら。私達、エデンから来たのよ。エルフの王の」
「……! ひひ、姫様っ!? 『エルフの姫』様っ!」
「えっ」
シェノは私達の正体を知って、すぐに姿勢を正してから、膝を着いた。
「しし、失礼しましたぁっ!」
「ちょっと、立って。頭を上げて。やめて頂戴。私は確かにそうだけど。今はただの冒険者よ」
「…………エルル姫、様」
「うーん。ねえルフ。他種族にとっても何か特別なことなの? これ」
「……エルル。あなたはまるで分かっていない」
「えっ」
「あなたはエルフという『種族』の王の直系の長子。もう、いち森の姫ではありません。勿論ただの冒険者なんてとても。……推定200万人の全エルフの上に立つ、ただひとりの『本物のプリンセス』ということを自覚してください」
「………………」
感覚が麻痺している? ああ、冒険者達や商会員は無法者か……。
そう言えば久々にエルフの姫と呼ばれたかもしれない。




