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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第5章:誇り高き戦士達
113/300

第113話 最善で最短の賢者の選択

 世界は広い。

 私はこれが初めての冒険で。勿論レドアン大陸にも初めて来た。


 私の、巨大森の外の知り合いなんて数えるほどしか居ない。ましてそれが、オルスやエデンから離れたこのレドアン大陸に居るなんてこと。ディレには会えたけれど、それがもう偶然で。


 名前も言っていない、あんなたった数分の、範囲も広くない魔法で。


 『特定』などありえないと。確率は低いだろうと。


 無警戒だった訳じゃない。頭にはあった。けれど、油断と言ってしまえば。


「さて、保護施設ね。場所までは聞けなかったけれど、探せばあるわよね」

「そうですね。彼の話を信じるなら、シェノの生存確率は思ったよりあると思います。焦らず地道にいきましょう」


 私達はそこから、まだ行ったことのない方向と道を選んで歩いていた。街に保護施設が無いのは知っているからだ。この辺りを捜してから、次に首都ウラクの保護施設を訪ねようと思って。


「……人気が無くなってきたわね」


 ここは砂海に近い。今は人の住んでいない旧市街地。

 ……だということを知るのは、この時はまだ。


「エルルっ!!」

「っ!?」


 ルフが抱き着いて――いや。突っ込んできた。私は吹き飛ばされる。咄嗟のことで訳が分からず。


「うっ!」


 塀の壁に背を打ち付け、声が漏れる。すぐにルフを確認する。その方向から、パン。乾いた、骨の折れた音がしたから。


「ルフ!」

「お逃げください!」

「!?」


 ルフはすぐさま立ち上がり、左手で短剣を抜いていた。右手がだらりと垂れている。折れたのは右腕だ。

 その、向こう。


「反応したか。あんた()、女にしては相当()()らしいな」

「…………!!」


 その声。男声。

 黒とカーキのロングコート。

 私達と同じ耳の形。


「『亜人狩り』……!?」

「エルル! 立ちなさい! 早く!」


 大きい。あの、私が殺したフルエートと一緒に居た彼だ。何故。どうして。ここに。魔力なんて感じなかった。気配も。足音も。尾行はルフが警戒していた筈なのに。


 今はもう、巨大な魔力が凄まじい重圧となって。


「ルフ!」

「エルル。私の夢は、あなたの夢です。どうかお幸せに。……行きなさい!」

「っ!」


 圧された。無理だ。勝てない。ルフは即座にそれを悟って。最善を最短で私に伝えた。普段はしない強い口調で。私だけは逃がせるように。

 自分を犠牲に。


「絶対に行かせません。女である私はあなたに勝てませんが、()()()()()()()使()()()()()()。私は死ぬでしょうが、あなたも……。目か、指か、耳か。どれかは()()()()()()()ので、覚悟してください」

「……『覚悟』か。良いだろう。あんたから殺して、あのエルルを追う」

「…………!」


 あの時とは違う。もう彼は油断してくれない。ふたり掛かりでも必ずふたりとも殺される。正面からでは絶対に勝てない。どうしてここに居るのかはもうどうでも良い。私はとにかく、逃げなければならない。


「ルフ! 愛してるわ!」

「……私もです。エルル様」


 振り返らずに駆け出した。同時に戦闘音が響く。

 私の背後で、肉を裂いて鮮血が吹き出る音が鳴った。


 私は唇を噛み潰した。

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